米国の生乳生産者団体は5月13日、酪農協共同基金(Cooperative Working Together:CWT)による乳用牛とう汰事業を通じ、5月下旬から7月上旬にかけて、過去最大となる102,898頭の搾乳牛をとう汰すると公表した。米国においては2003年7月に酪農家の出資によりCWTが設立され、生乳出荷量100ポンド当たり10セントの生産者積立金を原資として乳用牛のとう汰や輸出乳製品への補助が行われており、乳用牛とう汰事業は今回で通算7回目の実施となる。
今回の事業は4月1日から5月1日まで参加を受け付けていたもので、41州からの538戸の参加申請に対し、その約72%に当たる388戸の酪農家が事業対象として暫定承認されている。また、102,898頭の搾乳牛をとう汰することにより、年間約20億ポンド(90万7千トン)の生乳生産量が削減されるが、これは、2008年の年間生乳生産量約1,900億ポンド(8,617万9千トン)の1%を上回る水準に相当する。
CWTを運営する全国生乳生産者連盟(NMPF)のコザック会長は、承認農家の割合が72%の高い水準になった理由について、参加申請を行った酪農家が事業の仕組み(申請する補償単価が高すぎると承認されない)をよく理解していたためと説明し、補償単価が過去6回の水準を下回ったことを示唆している。また、CWTには追加で乳用牛のとう汰事業を実施するための原資があるとした上で、今後もあらゆる経済指標を注視していくとしており、乳価の回復動向によってはさらなる乳用牛のとう汰もあり得ることを明示している。
さらに、コザック会長は、事業への参加が承認された酪農家1戸当たりの飼養頭数は50頭から5,000頭にわたっているとし、すべての地域のすべての規模の酪農家が非常に厳しい経営状況に直面していると説明している。しかし、今回の参加農家の平均飼養頭数はこれまでの平均を上回る265頭となっており、前回と同様に、比較的大規模の酪農家も事業に参加していることが分かる。
過去6回行われたCWTによる乳用牛とう汰の実施時期には、その前後に比べて、乳用牛のと畜頭数が前年に比べて大きく増加している。このため、伝統的に市場への介入措置を嫌う肉用牛の生産者団体は、と畜頭数の増加により肉用牛価格に悪影響が出る可能性を指摘するなど、CWTによる乳用牛とう汰については必ずしも好意的ではない。
ここのところ、米国における乳用牛の週間と畜頭数(連邦検査と畜場に限る)はおおむね5万頭前後で推移している。また、乳用牛のと畜頭数は、夏場にかけて減少し冬場にかけて増加していく傾向がある。今回のCWT事業により、今後2カ月の間に過去の実績を大きく上回る10万頭規模の乳用牛が追加的にと畜場で処理されることになることから、この事業が食肉市場に与える影響も注目される。