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米国でも乳製品に対する輸出補助金の交付を再開へ

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 米国政府は5月22日、約5年ぶりとなる乳製品への輸出補助金の交付を6月1日から再開すると公表した。
今回の措置について、政府は今年初めにEUが輸出補助金を再開したことを理由の一つとして挙げているが、業界団体は、ニュージーランド(NZ)が自国の過剰在庫を非競争的な方法で国際市場に放出していることも原因の一つであると指摘している。今回の米国の動きに関しては、政府がその原因として明示したEUだけではなく、オセアニアや南米などほかの輸出国からも批判の声が寄せられている。

補助金の対象品目は脱脂粉乳、バターおよびチーズ。ただし、日本向けは対象外。

 米国の乳製品輸出奨励事業(DEIP)は、欧州の補助金付き輸出に対抗するため1985年5月に開始されたもので、現在は2008年農業法により2012年までウルグアイ・ラウンド(UR)農業合意に基づく約束の範囲内で実行することが定められている。制度開始の当初は、商品金融公社(CCC)の保有する在庫を民間企業が割安に譲り受けて輸出する形で実施されていたが、1991年からは民間貿易に対する直接支援の形に制度が変更され、それ以降、継続的に輸出補助金が交付されてきた。しかし、2004年を最後に、ここ数年はDEIPの実施は見送られていた。

 今回、政府が予算措置を講じたのは、脱脂粉乳68,201トン、乳脂肪(バター、バターオイルなど)21,097トン、チーズ3,030トン、その他乳製品(全粉乳など)34トンであり、WTO協定により米国に認められた譲許水準の上限値と一致している。しかし、22日の午後に政府が公表した入札公告によると、脱脂粉乳とチーズは予算上限の数量が募集されたのに対し、乳脂肪については予算措置を下回る10,000トンしか募集されておらず、その他乳製品については募集されていない。

 また、この入札公告によると、輸出補助金の交付対象となる輸出地域は、カリブ海・中南米諸国、アフリカ・中東地域、アジア・旧ソ連地域の3地域に限定されており、欧州やオセアニアは対象となっていない。
また、これらの輸出地域に含まれる国でも、メキシコ、日本、韓国などは対象から除外されている。なお、輸出補助金の単価は、落札した輸出業者の応札価格と乳製品調達価格の差額となるが、USDAは入札価格を相互比較するとともに、国際市場の価格動向も勘案して補助金の交付対象となる輸出契約を決めるとしている。

政府はEUによる輸出補助金交付への対抗の必要性を強調

 今回、DEIPの再開を決定した背景について、ヴィルサック農務長官は、「年初にEUが導入した直接輸出補助金の影響などで国際市場のおけるシェアを失いつつある米国の酪農・乳業界に対し、われわれが継続的に支援を行うことを示したものである。」と述べ、EUの輸出補助金交付への対抗措置の必要性をその理由として明示する一方で、生乳需給の緩和による乳価低迷に苦しむ国内の酪農家対策としての側面についてはあえて触れていない。
また、今回の乳製品輸出補助金の交付はUR農業合意で認められた範囲内で行われるWTO協定に整合的な措置であり、保護主義的な国内措置の自制を求めたG20首脳宣言を尊重する立場に変わりはないとした上で、「乳製品の補助金付き輸出を行っていない諸国の供給者への悪影響を最小化するようあらゆる可能性を探る。」と述べて、EU以外の乳製品輸出国からの反発に配慮する姿勢を示している。

生産者団体は今回の措置を需給改善対策として評価

 米国の主要酪農協を会員とする全米生乳生産者協議会(NMPF)と、乳製品輸出業者を会員とする米国乳製品輸出協会(USDEC)は、DEIPの再開の決定を受けて直ちにこれを評価する声明を発表している。

 NMPFのコザック会長は、DEIPが酪農家支援措置の一部として2008年農業法で認められた制度であるとした上で、「米国の酪農家に対して真に必要な支援を行おうという視点から、この事業がもたらす効果を理解した上でその実行を支持してくれたオバマ政権と複数の議員に感謝している。」と述べ、DEIPの再開決定が遅れた背景には輸出補助金の再開に反対する勢力の働きかけがあったことを示唆している。また、同会長はDEIPの完全活用により、国内市場から15億ポンド相当の生乳が除去される効果があると説明し、生産者が自主的に行っているCWT事業(注)との相乗効果により、供給過剰にある米国の生乳需給が改善に向かうことが期待されると評価している。

 一方、USDECのスーバー会長は、輸出補助金の完全撤廃という最終目標は変わらないが、現在のような苦境下ではEUの輸出補助金に対抗するために全ての措置をとるべきであるとした上で、DEIPの実施により、国際的に乳製品需要が低迷する中にあってもここ数年間で開拓してきた商業的市場での米国産乳製品の存在感が確保できるとの考えを示している。また、同会長は「米国の輸出業者は、EUの輸出補助金だけではなく、NZが自国の記録的な過剰在庫をあらゆる手段で削減しようとすることに端を発する不公正な貿易行為と国際価格の下落にも直面している。」と述べ、半独占的輸出企業を通じて乳製品の国際需給に大きな影響を与えるNZの動きを明示的に批判している。
(注) 6月中旬から開始された第7回乳用牛とう汰事業では、約20億ポンドの生乳に相当する約10万頭の乳用牛をとう汰する予定。なお、DEIPとCWTが予定どおりに実施された場合、2008年の米国の生乳生産量1900億ポンドの約1.8%に相当する35億ポンドが削減されることになる。

2009年7月以降のDEIPの実施については今後の検討に

 今回、政府が予算措置を講じることを決定したのは、2008年7月から2009年6月までのDEIP事業年度における乳製品の輸出補助についてである。入札公告に定められた補助金申請の入札期限も2009年6月29日に設定されており、翌事業年度となる2009年7月以降のDEIPの実施については、USDAは立場を明らかにしていない。
 
 一方、政府は昨年秋以降、2008年農業法により改正された乳製品価格支持事業を通じ、CCCを通じて大量の脱脂粉乳を買い入れている(価格支持買入)。3月末には、政府はそれまでの買入れ総量に相当する2億ポンドの脱脂粉乳を国内栄養支援対策向けに振り向けることを公表したが、脱脂粉乳の価格支持買入はその後も続いており、依然としてCCCが大量の脱脂粉乳在庫を抱える状況は続いている。

 新たな事業年度が始まる2009年7月以降もDEIPが継続的に実施されることになるのか、あるいは今年度と同様に年度末まで「様子見」の状況が続くことになるのか、今後の動向が注目される。
(参考)DEIPによる補助金つき輸出の実績
【郷 達也 平成21年6月1日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:藤井)
Tel:03-3583-9532