外国資本によるアグリビジネス部門への投資が増加(ブラジル)
過去7年間で460億ドル超と試算
ブラジル中央銀行の調査・研究によると、外国資本からのアグリビジネス部門に対する直接投資は近年増加傾向にあり、2002年から2008年の直接投資総額は469億1000万ドル(1ドル=91円:約4兆2688億1千万円)となった。さらに、2009年は、世界的な金融危機による市場の冷え込みから農畜産物の国際価格が下落したにもかかわらず、同投資額は最低でも50億ドル(約4550億円)になると見込んでいる。
北東部では未開発農地に注目
2002年から2008年までの投資傾向としては、南東部地域は農地、農業関連企業、農業関連サービス(肥料、機材、農薬販売など)の各分野を中心に行われており、特にサンパウロ州では、農業関連企業に2682百万ドル(約2440億62百万円)、農業関連サービスに2320百万ドル(約2111億20百万円)の外国資本が集まり、これらが投資総額の10%以上を占めている。また、すでに成熟した農業が展開されている南部に比べ、開発ポテンシャルの高い北東部では未開発農地に948百万ドル(約862億68百万円)が投資された。
農地価格は過去3年で40%上昇
国家植民農地改革院農地台帳(注)によると、外資系関連企業による農地取得は360万ヘクタールとされている。これは農地全体では約1% であるものの、大規模農地にあっては、その約半分がこれら外資により管理されているとのことである。昨年10月のLouis Dreyfus社(フランス)や12月のBunge社(米国)によるブラジルの砂糖・アルコール生産企業の買収のように、国際商品やバイオ燃料の原料を生産するために農地を取得するケースが一般的である。しかしながら、未開発農地に対しては将来的な土地価格の値上がりを視野に置いて投資する外資もあるようだ。実際、2006年から2008年の3カ年の農地価格の上昇率(現地コンサル調べ)は、農畜産業の先進地域である南部は54.9%、新興地域である中西部は47.4%、北東部は46.4%、北部は46.3%、南東部は34.1%となった。この結果、全国では43.9%上昇し、1ヘクタール当たり4,548レアル(1レアル=51円:約231,948円)となっている。
(注): |
「国家植民農地改革院台帳」とは、ブラジル国農地開発省国家植民農地改革院(INCRA)により1967年から定期的に調査・管理された農地台帳のこと。当初は、所有者、規模などを調査し、農地税の徴収や農地改革の推進を行う際に利用されていた。 |
一方でブラジル政府も警戒感
INCRAでは、バイオ燃料源や食糧を確保するための農地取得に加え、いずれ農地として活用されることを期待した投機的な土地の取得が外資により行われているが、農畜産物の生産に適する農地には限りがあるため、現在のような事態が過度に進むことを憂慮している。さらに、農地の使用権に関するブラジルの独立性を確保する観点から、外資による農地の取得に対する管理を強化する法律の改正を行う必要があると指摘している。このようなことを踏まえ、現在、大統領府では「外国人土地規制法」の改正など何らかの規制を検討しているところである。また、法務省(AGU)では海外に本拠を置く、またはブラジルに居住しない株主が経営に大きく関与する企業に対する新しい法律を検討する予定と聞いている。
依然として、国際商品の生産地として魅力
一部地域への急激な投資による開発は、ブラジル国内での地域間格差の拡大を助長することが懸念される一方で、アグリビジネス分野における外国資本の投資は、農畜産業の生産効率を高めるとともに国際競争力をも強化する。ブラジルは農畜産物生産に適した土地が豊富に存在しているため、農畜産業発展の潜在能力は非常に高いと言われているが、その発展のためには、海外で開発され、海外から導入された肥料、農薬、農業資材に依存せざるをえないことも事実である。このようなことから、ブラジル中央銀行では、今後ともアグリビジネス部門は外国資本からの直接投資を引き付けるとともに、生産者は輸出向けの国際商品(穀物)の生産拡大と外資への依存度をますます強めることになると見ている。
【星野 和久 平成22年1月14日発】
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