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-雇用創出、栄養支援、輸出促進などが重点-

米国農務省2011会計年度農業予算案を公表
-雇用創出、栄養支援、輸出促進などが重点-

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 ヴィルサック農務長官は2月1日、米政府が議会に提出する2011会計年度(2010年10月〜2011年9月)予算教書のうち、米国農務省(USDA)所管部分の予算内容を公表した。2011年度予算案は、前年度を約130億ドル(1兆1960億円:1ドル=92円)上回る1490億ドル(13兆7080億円)(予算権限(Budget Authority))となっており、内訳は、裁量的経費が一部事業の削減などにより前年度を下回ったものの、義務的経費は国内の栄養支援プログラムの増額などにより前年度を上回っている。
USDAにおける予算の推移

ヴィルサック農務長官は財政規律の重要性を訴えるとともに、効果的予算であることを強調

 今回の農業予算の特徴は、裁量的経費に切り込みつつも、オバマ大統領の一般教書演説などを踏まえ、地域社会の雇用創出、栄養支援対策の充実、輸出促進など重点分野の予算を拡充しているところにある。予算案公表に当たってヴィルサック農務長官は、「今は、過去10年以上にわたり積み重ねられた負債を前に、財政を正常化させる時である」と財政規律の重要性を強調しつつ、「この予算は、地域社会に直結した課題に対する取り組みや、今後の成長、繁栄のための新たな基礎となるものについて、優先的に実施するものである」と述べ、今回の予算が一過性のもではなく、長期的な地域経済の安定に資するものであることを強調している。

 具体的には、地域社会の成長および雇用創出として、418百万ドル(384億6千万円)の融資によるブロードバンドの整備、食料が不十分な地域の低所得者層に対する食料システムの整備や再生可能エネルギーの活用促進などが強化項目として挙げられている。また、栄養支援対策としては、WICプログラム(低所得の妊婦、出産直後の母親、5歳までの子供に食料支援などを行う事業)が前年度に比べ約350百万ドル(322億円)増額されるほか、SNAP(いわゆるフードスタンプ)や全米学校給食事業(保護者の所得が低い児童・生徒に無料または低価格で給食を供給する事業)が約140億ドル(1兆2880億円)増額されている。ヴィルサック農務長官は従前より、栄養支援対策は国内農畜産物生産者の経営改善策としても有効と評価しており、その傾向が今回の予算に顕著に反映されたものと考えられる。さらに、農産物輸出促進対策としては、オバマ大統領が推進している国家輸出イニシアティブとして、前年度予算額の倍以上の97百万ドル(89億3千万円)の予算措置が講じられており、輸出促進のための技術的支援、市場調査などが強化項目として挙げられている。なお、DEIP(乳製品輸出奨励事業)については、世界的な乳製品需給が改善傾向にあるため2011年度は予算計上されていないが、状況が悪化すれば、WTO協定に認められた数量を上限に予算措置するとされている。

 このほか、食品衛生分野において、定期検査数の増加やHACCP検証プログラムの更新などに10百万ドル(92億円)、USDAの公衆衛生疫学調査プログラムの強化などに4.3百万ドル(4億円)がそれぞれ増額計上されている。

食肉衛生検査手数料の引き上げを計上

 また、今回の予算案には、食肉および鶏卵の衛生検査に係る手数料引き上げが含まれており、サンプル採取の失敗などによる再検査の手数料として4百万ドル(3億7千万円)、さらに、通常検査のコスト上昇分をカバーするための手数料として8.6百万ドル(8億円)が計上されている。これら手数料引き上げ要求に対して、全米最大の食肉業界団体であるAMI(アメリカ食肉協会)のボイルCEOは、「手数料の引き上げはこれまでも議会によって常に否決されてきた。手数料が引き上げられれば、その上昇分は最終的には消費者に転嫁されることになる。」とコメントしている。
【上田 泰史 平成22年2月3日発】
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