話題

飼料価格などの上昇と鶏肉供給コストについて

京都産業大学 名誉教授 駒井 亨

 近年、穀物や原油をはじめとする原料価格の上昇が激しいが、それが鶏肉供給コストにどのように影響するのか推察してみたい。

1 穀物価格の不安定化

 第二次大戦後、世界における食糧需給の調整はアメリカがその役割を一手に引き受けてきたと言える。

 アメリカの食糧生産力は強大であるうえ、アメリカ政府は強力な農業保護振興政策を継続してきたので、世界の食糧価格は第二次大戦後一貫して安定していた。

 このことにより、世界各国は独自の食糧政策を行い、各国内の食糧需給に関する諸問題は世界市場に放出・解消することができ、また必要に応じて世界市場から食糧を調達することが可能であった。

 しかし、1995年世界貿易機関(WTO)の成立による農産物自由貿易体制への移行、さらに1996年農業法によるアメリカの農業政策の転換(政府による農業保護から農業生産者の自己責任による生産へ)によって、農業分野におけるビジネス・チャンスは増大する一方、その反面世界の食糧体系は従来より不安定なものとならざるを得なくなった〔以上拙著アグリビジネス論(1998年・(株)養賢堂刊)からの引用〕。昨今の穀物価格の高騰は、アメリカでのエタノール量産等によって触発されたとは言え、1996年以降いつ起きても不思議ではない事態であったと言えよう。


2 海上運賃の高騰

 飼料のような大容積商品は、輸送コストが重要なビジネス・ファクターとなる。すなわち畜産や養鶏は飼料の供給源に近接する程有利である。

 飼料原料の大半を輸入する日本では巨費を投じて多数の臨海飼料穀物コンビナートを建設してきた(畜産の情報・国内編2001年11月号・拙稿「調査・報告」 http://lin.alic.go.jp/alic/month/dome/2001/nov/chousa-2.htm参照)。飼料穀物の海上運賃(日米間)は、長年1トン当たり25ドル近辺で安定していたから、臨海コンビナートの周辺に立地する畜産生産者はアメリカ国内の生産者と大差ないコストで飼料を入手することができた。

 しかし、穀物の海上運賃は2004年頃から上昇しはじめ、直近では1トン当たり130ドルまで急騰している。国内の飼料の陸上運賃は、距離にもよるが、今のところ平均的には1トン当たり2,000〜3,000円に抑えられているが、エネルギー・コストの上昇を反映して陸上運賃も上昇せざるを得ない。

 このような海上運賃の高騰が恒常化し、これに陸上運賃の上昇が加われば、畜産物の飼料コストはさらに大幅に上昇することになる。


3 初生ヒナの生産コスト

 ブロイラー用の初生ヒナを生産するための種鶏は1世代(え付けから450日齢まで)に約60kgの飼料を消費し、この間に約150羽の初生ヒナを生産するから、ブロイラー用初生ヒナ1羽当たりの飼料消費量は400gと計算される。

 従って、飼料の価格が1kg当たり10円上昇すると、初生ヒナ1羽当たりの生産コストは4円上昇し、同様に飼料価格が20円上昇すると初生ヒナの生産コストは8円、飼料価格が30円上昇すると初生ヒナの生産コストは12円上昇し、さらに種鶏の飼育費用、ふ化費用、初生ヒナの輸送費用等の上昇がこれに加わる。


4 ブロイラー(鶏肉)の生産コスト

 昨今のブロイラーは、一般に50日齢前後で生体重2.8kg(オス・メス平均)で出荷される。

 この2.8kgのブロイラーを生産するのに必要な飼料は約5.6kg(FCR:2.0)であり、また主力製品(解体品)である正肉(むね肉+もも肉)の対生体歩留は36%、その他の副産品(ささみ、手羽もと、手羽さき、きも及びすなぎも)を合わせた全解体品の対生体歩留は50%である。

 以上の数字をもとに、飼料価格が1kg当たり、10円、20円及び30円上昇した場合の正肉1kg当たりの生産コストの上昇を試算すると、

 飼料価格10円上昇→正肉コスト42円上昇、

 飼料価格20円上昇→正肉コスト84円上昇、

 飼料価格30円上昇→正肉コスト126円上昇となる。


5 飼料価格上昇による鶏肉供給コスト上昇

 前項の鶏肉生産コスト上昇分に初生ヒナの生産コスト上昇分のうち正肉分担分(75%)を加えた鶏肉供給コストの上昇(正肉1kg当たり)は、

 飼料10円上昇で正肉45円上昇、

 飼料20円上昇で正肉90円上昇、

 飼料30円上昇で正肉135円上昇となる。

 2007年の鶏肉小売価格(総務省・小売物価統計調査報告・消費税込み・もも肉・円/100g)は、125円であったから、飼料が20円上昇した場合の正肉コストの上昇をそのまま加算すると、134円で、7%強の小売価格上昇となる。

 実際には、上記の飼料価格上昇のほかに、食鶏処理加工コスト、包装・輸送・配送その他流通コスト等の上昇分も加算されることになるが、それでもなお鶏肉が最も経済的な食肉であることに変りはない。

駒井 亨(こまい とおる)
 京都産業大学名誉教授
 1932年生まれ、京都大学大学院農業研究科修士課程終了。農学博士。広島大学、神戸大学等の非常勤講師を経て、1983年京都産業大学・教養部教授、1986年同・経営学部教授、1992年同・大学院経済学研究科教授、2002年同・名誉教授。農林水産省養鶏問題懇談会・委員、社団法人日本食鳥協会・顧問。主な著書に、「ブロイラー」、「食品産業論」、「アグリビジネス論」(以上いずれも(株)養賢堂刊)など。


 

元のページに戻る