調査・報告

中国の食肉消費をめぐる動向

〜第5回世界豚肉会議での報告と小売・外食事例〜
 

査情報部調査課 課長 瀬島 浩子
           係長 藤原 琢也

1.はじめに

  中国では経済成長が続き、国内総生産(GDP)の伸び率は、過去10年で年平均9.8%と高水準で推移した。2008年後半以降の世界同時不況により、その勢いはいったん衰えを見せ、2009年第1四半期(1〜3月)には6.1%まで低下した。しかし、中国政府の景気刺激策もあって、第2四半期(4〜6月)には前期比1.8ポイント高の7.9%(速報値)を記録し、景気の回復ぶりが鮮明となった。国際通貨基金(IMF)では、2009年通年の成長率を8.5%と見込んでおり、8%前後を目指す中国政府の目標は十分達成されるものとみられる。

 このような好調な経済を背景に、1人当たり食肉消費量も増加傾向で推移している。米国農務省(USDA)によれば、1999年から2008年の10年で5.0%増加し、2009年も前年比3.3%の増加が見込まれている。

 こうした中、9月3・4日、山東省青島市で開催された第5回世界豚肉会議(World Pork Conference)に出席する機会を得た。本稿では、会議で発表された中国の食肉消費動向を紹介するとともに、同国における今後の食肉消費見通し、中でも肉の総称ともされる豚肉について、消費量は増えるのか、消費形態はどのように変化していくのかなどについて、現地の関係者への聞き取りを踏まえつつ報告する。

 

2. 豚肉需給の概況

世界の4割を生産し、その全てを国内で消費

 USDAによると、2008年における中国の豚飼養頭数は、日本の約46倍に当たる4億4666万頭と世界第1位であり、世界の約半分のシェアを有する。また、豚肉生産量(枝肉ベース)は、日本の約37倍の約4600万トンと、世界の4割強を占める「豚肉大国」である。

 また、日本が需要の半分以上を輸入に頼る輸入依存型であるのに対し、中国は、巨大な供給を人口13億人がほぼ全て消費する自給型となっている。

表1 豚肉需給の推移
図1 主要畜産国の豚肉需給

資料:USDA「Livestock and Poultry: World Markets and Trade」(2009年4月号)
注:2008年データを元に作成、数量は枝肉換算ベース




 2008年の世界の豚肉生産量は、1億391万トン(枝肉換算ベースFAO Food Outlook Preview、2009年6月)となっている。

 主要生産国(国別データは米国農務省)は中国で、4615万トン(前年比4.4%増)と、自国での消費量(4636万トン、同5.2%増)が生産量を上回っている。これにEU(27カ国、2253万トン、同0.3%減)や米国(1060万トン、同6.4%増)などの先進国が続くがこれらの国々は、生産量に占める輸出量の割合が高い。BRICsでは経済成長に伴いブラジル(301万トン、同0.8%増)、ロシア(206万トン、同7.9%増)の生産量も徐々に増加している。中国以外のアジア地域では、ベトナム(185万トン、同1.0%増)やフィリピン(119万トン、同4.8%減)などの生産量、消費量が多い。日本は、生産量が125万トンであるが、消費量のおよそ半分の127万トンを輸入しており、世界全体の輸入量の2割を占める最大の豚肉輸入国である。


牛肉などに比べて緩やかな伸び

 中国では、肉といえば豚肉を指し、2008年における1人当たり食肉消費量は48キログラム、このうち33.7キログラムは豚肉となっている。このように、食肉消費量に占める豚肉割合は約7割と、牛肉(約1割)や家きん肉(約2割)に比べはるかに大きい。これは、シェアは最大(約4割)ながら、牛肉や家きん肉とシェアをほぼ分けあっている日本とは対照的である。 1人当たり豚肉消費量の推移を見ると、1999年の32.4キログラムから2008年には33.7 キログラムへと4.0%増加したのに対し、家きん肉は9.3キログラムから9.6キログラムへと3.2%の増、牛肉は4.0キログラムから4.7キログラムへと17.5%の増であった。このように、豚肉消費は、歴史的に好まれてきたこともあり、量こそ多いものの、最近10年間は牛肉に比べて緩やかな増加にとどまっている。

 USDAは、2009年の1人当たり食肉消費量について、豚肉が同2.4%増の34.5キログラム、牛肉が前年同の4.7キログラム、家きん肉が前年比8.3%増の10.3キログラム、食肉全体では同3.3%増の49.6キログラムと見込んでいる。家きん肉の伸びが目立つが、これは、2007年から2008年にかけて豚肉価格が高騰したため、豚肉の消費が一時的に家きん肉に代替した余波が2009年においてもみられることによるもので、USDAでは、豚肉価格の沈静化とともに豚肉消費が回復し、家きん肉消費の伸びはゆるやかになると見ている。

表2 1人当たり食肉消費量
都市部と農村部で差

 中国の場合、都市部と農村部における食肉の消費動向には大きな違いがみられる。中国では、経済成長とともに都市部の居住人口が増加、農村部で減少する傾向が続き、2007年には人口の45%が都市部に居住している。中国国家統計局が公表する1人当たり食肉消費(家計消費)量を見ると、都市部、農村部ともに増加傾向で推移しているが、1999年と2007年を比べると、都市部の27.6%増に対し、農村部は14.6%増と、都市部の方が伸びが大きい。また、両者の差も1999年の1.5倍から2007年の1.7倍へと拡大しており、農村部の食肉消費量は都市部の20年前の水準にとどまっているとも言われている。

 さらに、2007年における都市部の1人当たり豚肉消費(家計消費)量は1999年比107.7%と食肉全体の消費量が増加する中、家きん肉(196.3%)や牛肉(139.2%)に比べて緩やかな伸びとなり、その結果、食肉消費に占めるシェアも1999年の67.9%から2007年の57.3%と10.6ポイント低下した。一方、農村部については、2007年における1人当たり豚肉消費(家計消費)量は1999年比105.3%と都市部ほど増加していないものの、食肉全体の消費量の伸びが都市部に比べて小さい上、牛肉や家きん肉など豚肉以外の消費量も都市部ほど増加しなかったことから、食肉消費に占める割合は低下傾向で推移しつつも7割台を維持している。

 この結果、2007年における都市部と農村部の消費量の差は、牛肉が3.8倍と最も大きく、次いで家きん肉が2.5倍、羊肉が1.6倍となっている。これに対し、都市部、農村部ともに消費量が最も多い豚肉は、食肉の平均(1.7倍)を下回る1.4倍と両者の差は最も小さい。このことからも、豚肉が広く中国で好まれ、食されていることが分かる。

 中国国家発展改革委員会は、2020年までの生産目標などを定めた「国家食糧安全保障中長期規画要綱」(以下、「規画要綱」)(2008年11月発表)の中で、2020年における食肉の生産目標を、2007年実績(6800万トン)比14.7%増の7800万トンとしている。豚肉に係る目標数値は公表されていないが、生産実績から見て、このうち7割程度は豚肉に由来すると考えられる。この目標は、市場経済が進展していく中で、民間の力だけで達成できる予測的指標と位置付けられており、調査時に面談した現地の学識経験者も、無理なく達成できる水準と見ていた。

 中国では、わずか20数年前まで「飢え」が身近にあったという。中でも、豚肉は、80年代後半の段階で配給の対象であったように、基本的な食材として国民の関心が高く、2007年に豚肉価格が高騰した際は、温家宝首相が自ら価格の安定を指示するなど、大きな社会問題にもなった。規画要綱には、海外からの輸入に極力頼らず、自給を旨として食料の安定供給を目指す、また、そうしないと13億という巨大な人口は養えず、国家の安寧も得られないという当局の危機意識が表れているといえよう。

 経済が発展するにつれて、都市部と農村部、また、同じ都市部でも富裕層とそうでない者との所得格差が顕在化し、今回滞在した北京や青島では、海外の高級ブランド品を扱うデパートの地下で高価な食材が販売される一方、街中の露店で野菜や豚肉を買い求める人々の姿を何度か見かけた。

 こうした現状に対し、社会の持続的な発展のためには、畜産業を含む農業の振興を通じて、農村の開発を推し進め、これにより農村部の底上げ、ひいては内需の拡大を図る必要があるとされている。
図2 1人当たり食肉消費(家計消費)(2007 年)
表3 1人当たり食肉消費(家計消費)量の推移


3.世界豚肉会議で紹介された食肉消費動向

 以上のように、世界の豚肉市場で圧倒的な存在を誇るとともに、国内市場でも基幹的な食肉として豚肉が位置付けられている中国において、第5回世界豚肉会議(The Fifth IMS World Pork Conference)が開催された。この会議は、2年に1度、パリに事務局を置く国際食肉事務局(International Meat Secretariat)が、世界各地域における豚肉の需給や貿易動向に関する情報交換などを目的として開催するものである。5回目を数える今回は、前回の南京に続き、食肉関係業者の全国団体である中国肉類協会との共催により開かれ、国際機関、各国政府機関、学識経験者、業界などの豚肉関係者約470名が世界19カ国から集まった。

 この会議では、各地域を代表する35人の専門家がそれぞれ、豚肉をめぐる情勢、需給見通し、生産流通体制などについて発表した。 以下、この会議で報告された中国における食肉の消費動向などの概要を報告する。

 
【世界各国から豚肉関係者約470名が参加】
 
【会議会場となった青島香格里拉大飯店】
 

(1)中国人の食肉消費習慣

 国務院発展研究中心の潘耀国教授は、中国人の食肉消費習慣について、次のように報告した。

食肉消費は増加傾向で推移

 中国人の年間食肉消費(家計消費)量は、60年前と比較すると10倍以上、30年前と比べても2〜3倍程度伸びており、毎年500グラムずつ増加傾向で推移している。都市部では1人当たり32キログラムで、これに外食を加えると同40キログラム、農村部では同18キログラム、首都北京においては同60キログラムで、うち富裕層は70キログラムとなっている。また、この増加傾向は今後も継続していくと思われる。

 豚肉については河北省、河南省、山東省、四川省など大都市が存在する地域が主要な生産地域であり、同時に消費量も多い。都市部と農村部との差は年々縮小してきていることから、中国の食肉消費増加の潜在力は広大な農村地域に存在しており、農村での消費は今後倍増していく可能性がある。

食肉消費の中心は豚肉

 中国の豚肉生産量は、食肉生産量全体の64%を占めている。特に農村部では、豚肉消費の割合が全体の75%に達している。これは豚肉価格が牛肉や羊肉より安価(30〜50%安)なためであり、牛肉と羊肉は全体の13.6%でしかない。なお、牛肉と羊肉は主に、都市部富裕層や牧畜民、宗教上の制約がある人々に食されている。

 一方、鶏肉は豚肉より価格が安い。主要生産地域では、10年程前より大規模な生産と近代的な処理施設による輸出を行っており、その影響もあって、周辺地域の消費者も鶏肉消費を増加させてきた。また、鶏卵は鶏肉の2倍以上生産されている。

3 食肉卸売価格の推移

消費動向の変化

 中国における豚肉は、主に常温流通による生鮮肉や簡易的な加工肉として食されているが、所得・生活水準の向上とともに消費形態も変化しつつあり、より付加価値の高い加工肉、部位別の冷蔵肉、小分けに包装された肉、半製品の肉、加熱済製品などの消費割合が増加している。

 今後は、より衛生的で安全な豚肉が選択される傾向となり、簡素から精密へ、常温から加熱済へ、バルク包装から小分け包装へなど、高品質の商品が好まれるようになると考えられている。

食肉にも「ブランド」消費が

 中国人は食肉における「ブランド」意識がほとんどなく、食肉を購入する際は、家から比較的近い小売店や量販店で購入する傾向にある。これは、現行の販売ルートにおいて、卸売段階の製品ブランドが小売段階で消滅し、量販店の「ブランド」を付けて販売されているためで、消費者の品質に対する信頼や商品の選択は量販店に委ねられている。今後、より安全性が重視されるようになれば、品質と信頼の象徴である企業「ブランド」が数多く確立されることが予想され、食肉市場の将来をリードすることになると考えられている。

外食での食肉消費割合が徐々に増加

 中国における外食は、都市部富裕層やビジネス上の接待などが多い一方で、外食する機会がほとんどない貧困層や低所得者が少なくとも数億人は存在している。彼らは、年間の食肉消費量が10キログラム程度でしかないため、食肉消費における極めて大きな潜在力でもあり、経済発展に伴い所得が上昇すれば、こうした潜在力が次第に現実の購買力へと変わっていくことになる。

 また、外食文化が発展すれば、食文化が多様化し、人々は栄養バランスに関心を持つようになり、栄養豊富な食肉の役割が重要さを増していくと考えられている。

外国人の食肉消費習慣が与える影響

 世界各国の消費習慣が中国人に与える影響は大きい。まず、毎年多くの学生が海外に留学し、肉を食べる習慣を身に付けて帰国する。短期的な旅行や研修を契機に肉を食べるようになる人も少なくない。

 次に、北京、上海のような大都市や広東省には数十万人という外国人が滞在しているが、彼らは中華料理を食べる習慣を身に付けるとともに、自国の食肉消費習慣を中国に伝える。特に外国人が集中して居住する地域には、西洋料理店や焼肉店が数多く存在し、そこで「美味しい」食肉の味を覚える中国人も多い。

 このように海外の食肉文化に触れ、経済的にも豊かな中国人は、他の中国人のモデルとなることで、中国全土に新しい食肉消費習慣を定着させる先導的役割を果たしている。

 世界豚肉会議は、2大会連続して中国が会場に選ばれた。世界が中国の食肉産業の将来性を認め、食肉市場を認めている。中国の畜産業は発展途上であり、中国人の食肉消費は、今後さらに、栄養を重視し、科学的で、健康的な方向に向かって成長するはずである。「お腹いっぱいに食べられるようになった」中国人は、より栄養価が高く「美味しい」食べ物を求めるようになり、その中で畜産物の果たす役割の重要性は大きくなっていくと考えられている。



(2)世界金融危機下における中国食肉業界の発展
   

 中国肉類協会の副会長であるケ富江氏は、世界的な金融危機の下、現在の成長を維持するための課題および今後の取組みを次のように報告した。

 中国の食肉加工および関連産業の発展のためには、産業全体の安定した成長を継続する必要があるが、現在、さまざまな矛盾点が互いに交錯し、相当に厳しい情勢に直面している。このため、内需拡大を主たる目標とし、産業構造の改善を図り、世界的な金融危機の影響を最小限に抑えるよう努力する必要がある。

 一方、中国では工業化、都市化が急速に進み、消費構造が変化する局面を迎えている。都市、農村住民の食肉需要は伸び続け、食肉加工業界はその需要に応える必要があるが、食肉の安定供給、品質の安全性の確保が依然として非常に大きな課題となっている。

 この課題を解決するためには、(1)経営の大規模化・集約化、(2)と畜・加工施設の近代化・機械化、(3)輸送・販売体制のコールドチェーン化など、食肉産業の近代化を推進する必要があり、これらを通じて、生産、と畜・加工、輸送・販売が複合的に発展していくと考えている。

 同時に、このような近代化は、多大な人口、限られた資源、自然環境などとのバランスを崩すことなく推進することも求められている。

 さらには、食肉関連企業の財務・組織体制の変革、生産から販売に至る各段階における衛生管理水準の向上、家畜の生産性や飼料効率の改善など生産技術の革新を精力的に行うことで、内需拡大を図り、ひいては国際競争力を確保するべく努力していきたい。

 食肉産業界は、「大きいものを小さくし、粗雑なものを精細にし、常温のものを加熱し、単一のものを多様化し、廃棄物を宝とし、害を利とする」という方針に基づき、日増しに高まる消費者の食肉製品へのニーズに対し、確実に対応していきたいと考えている。



4.中国国内における食肉の小売・外食の最近の動向

 前項で紹介したとおり、中国においては、所得・生活水準の向上とともに消費形態が変化しつつあり、外食の機会が徐々に増えているが、実際の小売・外食の現場の反応を調査するべく、北京および青島において、日系の量販店および外食レストランを訪問する機会を得たので、その概要を報告する。

(1)小売業の概況

 中国の小売業は、1970年代後半からの市場経済導入、経済開放政策による著しい発展が続いている。

 また、WTO加盟3年後となる2004年12月、外資への小売業の全面開放が行われた。これはWTO加盟時の公約であり、これにより、外資の出資額、地域、数量(会社数、店舗数)、フランチャイズによるチェーン展開などといった規制が全面的に撤廃され、外資系企業進出の起爆剤となった。

 中国連鎖経営協会がまとめた「2007年中国連鎖経営100強企業排序表」(家電量販、スーパーマーケット、百貨店、コンビニエンスストア、外食など大手チェーン100社の売上高ランキング)によると、上位100社の売上規模は前年比21%増の1兆22億元(約15兆円。1元=13円)となった。同売上規模の対前年伸び率は、2003年45%、2004年39%、2005年42%、2006年25%、2007年21%と徐々にその勢いは緩やかになっているものの、今後もその発展は継続すると考えられている。

表4 主な外資系食品・小売企業の売上高、店舗数

 一方、「飲食青書」(中国社会科学院、中国料理協会)によれば、中国の外食産業は、経済発展に伴い18年連続で2ケタ台の急成長を遂げ、2008年における飲食業の年間小売額で見ると前年比24.7%増の1兆5404億元(約20兆円)産業となるなど、日本の外食市場を凌駕する勢い(注) となっている。

 また、2008年における1人当たりの年間外食費も1,158.5元(約15,060円)と2005年に比べ1.7倍の伸びを示している。

(注) 日本における外食産業は、少子高齢化や景気の減退の影響により1997年をピークに減少を続け、2008年には24兆4315億円(財団法人食 の安全・安心財団付属機関外食産業総合調査研究センター)となっている。




(2)日系量販店(青島市)


アジア事業に力を注ぐ日系大手スーパーマーケット企業

 この店舗は、1998年1月、日本の大手スーパーマーケット企業が青島進出第1号店の大型総合スーパーとして開店した。

 同社はアジアにおいて、グループ8社で総合スーパー(GMS)42店舗、スーパーマーケット(SM)18店舗を有するなど積極的に事業展開を行っている(2008年12月現在)。

 中国においては、約20年前に香港で出店したのを皮切りに、広東省、北京などでも店舗を展開し、GMSが23店舗、SMが4店舗となっている。

 山東省においては、1996年3月、青島市近郊への出店・運営を行うため、現地企業と共同出資(資本金は2億8266万元(約36億7千万円))による現地法人を設立した。現在、同店をはじめ4店舗を構えており、今年11月に5店舗目を開店する予定である。

【 店舗の外観 】
店舗の概況

 同店は、青島の新たな繁華街として栄える香港中路に面し、周囲にはホテルやオフィスビル、マンションなど高層建築が建ち並ぶ好立地に位置し、総売場面積約22万u、地上3階建て、駐車場約1,000台、営業時間8:30〜23:00(冬季は22:00)という大規模総合スーパーである。

 売り場は、食料品、家具、衣料品、家庭用品、電化製品などの直営部分と25件程度の専門小売店、レストランなどで形成されている。 食料品売場の一角には、うどん、たこ焼き、寿司、おにぎり、弁当なども売られているほか、レストランのメニューにも中国語、英語に並び日本語が表記されているなど、日系スーパーらしさも垣間見られる。
【清潔で活気あふれる店内】

 主な客層は青島市内の中間富裕層注で、商品価格は比較的高めに設定されており、接客を行う販売員も多数配置されている。車での来店客も約3割と多く、現地在住の日本人や観光客などにも人気の店舗となっている。


 注: 2007年における青島市1人当たりGDPは約45,000ドルであり、中国の平均(2,460ドル)に比べかなり裕福な地域といえる。人口は762万人(2008年)
  で、外務省「海外在留邦人数統計によると、青島 在住の日本人は約2,800人となっている。市内には、アメリカ系やマレーシア系の高級百貨店、フランス
  系やアメリカ系のハイパーマーケット(後述の囲み記事参照)、さらに地元のローカルスーパーや八百屋、食肉店、鮮魚店などの小売店があるが、同店
    は高級百貨店とハイパーマーケットの中間に位置付けられている。同店へ車で買い物に行くのが「一種のステータス」になっているとのこと。




食料品売り場

 食料品売り場は同店の1階に位置している。山東省は、農畜産物生産の豊富な産地として知られており、新鮮な野菜や果物、種類豊富な水産物、牛肉、豚肉、家きん肉や卵、牛乳・乳製品など日常生活に欠かせない食料品が数多く販売されている。

 清潔で明るい店内では、商品は棚ごとに整理されて陳列されており、試食などの販売促進活動も行われている。生鮮食料品(チルド)は壁に沿って並べられ、通路も広く、客の多くはショッピングカートで買い物を行うなど、日本のGMSの店舗と同様の雰囲気が醸し出されている。
  【平日にも関わらず駐車場には多くの車が】
【「紅色、活力」コーナーに並ぶ野菜】
  【種類豊富な水産物】
【色とりどりの野菜が並ぶ】

 このほか、主食となるまん頭類をはじめ各種総菜コーナーは、日本の一般的なGMSより充実しており、中国における中食需要の大きさが実感できるものであった。

【乳飲料、飲むヨーグルトなどの陳列風景】
【バター、チーズの種類も多い】
【箱詰めで陳列されている鶏卵】
【まん頭類などが並ぶ総菜コーナー】


食肉(牛肉、豚肉、家きん肉)売り場

 同店の食肉売り場は、「精肉コーナー」と「加工品コーナー」に大別される。

 「精肉コーナー」で販売されているのは、牛肉、豚肉、家きん肉などの精肉である。畜種別の売り場面積は、中国人の基本食材である豚肉が圧倒的に広く、次いで家きん肉、牛肉の順になっている。

 中国では、と畜から販売に至るまで常温で管理され、店頭に並べた部分肉を客の要望に応じてその場でカットする「裸売り」が行われる場合が多い。これは、中国人は、実際に目の前でカットされた肉の品質を「自分の目」で判断し、自らの責任で商品を選ぶという意識が強いことによるものであり、また、「脂身を少し多めで」など、店との細かいやり取りを好むためでもある(後述の囲み記事参照)。

 一方、同店においては、精肉のすべてを日系食肉専門業者である「S社」が取り扱っている。同社は、と畜・枝肉輸送段階から温度管理を徹底し、販売形態も日本のように冷蔵ショーケースをはさんだ対面での「量り売り」や、個別包装が行われた「パック売り」を基本としている。

 この「非中国式」が受け入れられている背景には、「目の前でさばかれなくても安心できる」という、製品に対する信頼を同社が10年にわたって構築してきたことと併せて、日本式の「パック売り」という衛生的かつ利便性の高さが評価されてきているためとみられ、「肉を買うならここで」という客も多いという。

 豚肉に関しては、主に黒豚と白豚を掛け合わせた交配種を提携業者(3業者)から購入し、加工処理を施した上で販売している。規格にあった豚肉を安定的に供給するため、提携業者に対して生体豚の健康管理などの指導を行うほか、と畜時からのトレサビリティ、豚肉の衛生・品質管理、流通段階の温度管理などを徹底して行っている。

 なお、牛肉に関しては、中国で生産体系が確立されていない上、同社のニーズに対応できる業者が存在しないことから、中国の在来種で古くから肉質が良いことで有名な「魯西黄牛」の改良種を自社農場で肥育し、ブランド牛として販売している。小売価格は少々高いもののステーキや焼き肉用として人気を博し、経済成長に伴う牛肉消費の増加も追い風となり、同店の牛肉売り場面積は最近増えているという。

【ショーケースでの対面販売】
 
【品質管理に関するポスター】
 
【パック売り(チルド棚)】
【ブランド名のシールが貼られた牛肉】

 同社での衛生・品質管理は、日本人獣医師の指導を受けた者が行っており、陳列棚には品質管理手法に関するポスターを掲示するなど、安全性や信頼性の確保に努めている。また、中国においては、食肉に関する詳細な共通カットチャートが存在せず、豚肉の場合は枝肉を前・中・後とおおまかに3分割する程度となっている。このため、同社では日本のカットチャートを参考とした独自スペックを採用し、値札に日本語やイラストで部位名、調理用途などを併記している。これは日本人客を対象に商品情報を提示するのみならず、「パック売り」という日本式のイメージ、日本ブランドによる安心感を浸透・定着させる効果があると考えられる。

 一方、「加工品コーナー」で販売されているのは、ハム、ソーセージ、調理済みの豚肉製品、鶏肉製品などであるが、一部のテナント販売を除き、これらの大部分は同店が中国内の企業から直接仕入・販売している。 これら加工品に関しては、青島市内の他のスーパーマーケットでも見かけることの多い製品が販売されており、特色ある「精肉コーナー」と並んで、地元住民に人気のあるコーナーとなっている。
【部位名がイラストと日本語で併記】
【中国で人気のあるソーセージ2元(約30円)/個。常温販売】
【現地メーカーによる豚肉加工品のテナント販売】
  【豊富な家きん肉 鴨肉(左)、鳩肉】

【日本では見かけないアヒル肉など】


 
 
表5 日系量販店(青島)における豚肉などの小売価格


(3)日系外食レストラン(北京市)

店舗の概況

 この外食レストランは、今年7月1日、日本で外食レストラン(約600店)を経営する大手外食企業が、中国進出第1号店として開店した。3年後には北京市内を中心に30店舗に増やすことを目標としているという。

 同店は、北京の中心、天安門から東に6km、長安街に面したCBDセントラルビジネスディストリクト内にあり、周囲には百貨店などの集客施設やオフィスビルなど高層建築が建ち並ぶ新たなビジネス開発区の中核といった好立地に位置し、店舗面積350u、客席数104席、完全分煙、24時間営業が営業スタイルとなっている。

 同社は中国を重要な事業展開地域とし、既に同国内でグループ企業が展開しているコンビニエンスストア、総合スーパー・食品スーパーに続き、新たなフードサービス事業の一環として同店を出店した。

 出店に当たり、現地での食材調達の効率化や中国における取引などを円滑に行うため、中国企業との合弁会社を設立した。資本金1億元(約13億円)のうち、75%を同社が、残りを大手百貨小売グループなど現地企業が出資している。

       
【店舗(1階)が入居する大型オフィスビル】      【正面入り口】

店舗コンセプト、客層

 同店は、「便利さ」「おいしさ」「楽しさ」を追求し、徹底した地域密着戦略で、「日常利用される、地域になくてはならないレストラン」を目指し、中でも「フルテーブルサービス」(注文、料理提供、食器の上げ下げ、会計に至るまで、客が頼むより先に、ウェイター・ウェイトレスが同作業を行う日本式のテーブルサービス)に重点を置いている。

【広くて明るい店内の様子】

 このコンセプトに基づき、同店では、中国国内での一般的な飲食店ではあまり見られない「コーヒーのお替り」サービスを行うなど、手ごろな値段で新しいサービスを提供することで、地元飲食店をはじめ、日本から進出しているほかのレストランとの差別化を図っている。

 また、主な客層については、月収が6,000元(約78,000円)程度のビジネスマンやその家族、中国の改革開放路線により洋食文化になじみのある若い世代となっている。「中国統計年鑑2008」(中国国家統計局)によると、北京における1人当たりの可処分所得(年間)が21,989元(約28,600円)であることから、同店の主要なターゲットは「中間富裕層」であるといえる。

 このため、営業時間帯別のメニュー単価についても、モーニング:単品16〜20元(約208円〜260円)、ランチ:単品30〜40元(約390円〜520円)、ディナー:単品45〜55元(約585円〜715円)としており、ドリンク代などを加えると客一人当たり単価は60〜70元(約780〜910円)となっている。

 中国では外食頻度が多く、朝食や屋台などでの飲食を含めて週5回程度外食し、1回当たりの単価は、地域によって差は大きいが、5〜20元(約65〜260円)程度と言われている。同店の単価はやや高めの設定ではあるが、北京の洋食レストランは1食当たり200元(約2,600円)程度の高級店が多いため、それらに比べれば気軽に利用できる価格設定ともなっている。

メニュー

 同店のメニューは、洋食が中心であり、肉料理、ハンバーグ、パスタなど約40アイテムがメインとなっているほか、デザート、ドリンクを含めた全営業時間帯の合計では約90アイテムが提供されている。実際に食したパスタは日本で食べる味と全く同じで、非常に美味しかったが、日系レストランならではの和食や現地で最も一般的な中華料理が入っておらず、また、中国における食肉で、最も多く食べられている豚肉や、鶏肉を用いた料理もほとんどない。
【メニューにはハンバーグやパスタなどの洋食が並ぶ】

 これは、先に進出している他企業との差別化としての戦略もあろうが、「中国における新たな食文化の提案や生活品質の向上に寄与する」という同社設立精神を踏まえ、和食や中華料理ではなく、日本においてある程度の評価を受けた洋食をメニューの中心に置いたためであるという。日本においても、パスタやドリアなどの洋食は外食レストランから始まり、それが家庭における洋食文化へと発展したとされているが、中国においても同様に、洋食文化を広める牽引役になるとともに、外食市場でのポジションを確立したいという意向なのであろう。

 また、同店の一番人気は牛肉100%のハンバーグであるという。同社の責任者によると、当初、豚肉文化の国で売れるかどうか不安であったが、客から「これはどうやって食べるのか?」と聞かれることもあるらしく、「このようなやりとりを通じて、洋食が広まっていく」という手応えを感じているとのことであった。平日はビジネスマン客が中心であるが、週末には家族で食事を楽しむ姿も見られるとのことで、同社が提供する牛肉メニューや日本式のサービスは、国務院発展研究中心の潘教授が第5回世界豚肉会議で報告したとおり、中国における牛肉消費拡大の一翼を担う可能性を秘めていると言えよう。

食材調達

 食材に関しては、乳製品など一部は、日本やニュージーランドから輸入しているが、9割程度は中国国内で調達している。このうち半分程度をPBブランドとし、対日輸出を行っている山東省の食品企業などと契約することや、野菜などをグループ会社と共同調達するなどして安定的な確保に努めている。当初は、食習慣の違いや「日本で成功した味」を再現するのが難しいなど苦労したが、同店が開店してからは順調に経過しているとのことである。また、安全性に関しては、当然のこととして取り組んでおり、食品原料の成分配合や製造工程の詳細を仕入企業側に提示し、またそれらを定期的にトレースすることで、履歴が確認できる体制を整えている。

 なお、物流に関しては、中国ではチルド輸送体制が発展途上であることや、冷凍トラックの運転手が「燃料節減のためエンジンをすぐに切ってしまう」など意識が低いこともあって、食材調達で最も神経を使うとのことであり、同社ではトラックおよび運転手を指定して、輸送中の温度管理を徹底させているという。

 中国における物流インフラの未整備が指摘されて久しいが、今回の調査を通じて、消費市場の発展ぶりとのギャップを埋める現場の苦労の一端をうかがい知ることができた。
【開放的な店舗で入口からは厨房が見渡せる】

5.終わりに

 今回の調査を通じて、中国における食肉需要は、経済成長に伴う所得の上昇により、引き続き増加傾向で推移する見込みであることが確認できた。その中で、豚肉は、現状でも肉を「お腹いっぱい食べていない」農村部において、伸びしろが大きいとする意見が多かった。また、牛肉や家きん肉の消費が増え、豚肉のパイを奪う可能性については、将来的にはあるとしても、食肉全体の消費量が増加するため短期的には考えられないと、関係者の多くは見ていた。

 こうしたことから、今後は、豚の改良技術や飼養管理技術など生産性の向上が図られるとともに、チルド輸送をはじめとした流通インフラが整備されれば、中国当局が規画要綱の中で設定した目標以上に生産が増加し、潜在的な需要が満たされる可能性があるとみられる。豚肉以外の食肉として、たとえば牛肉についても、現状では都市部の嗜好品としてのポジションを占めるにすぎないが、所得の上昇に伴い、消費者が外食店での経験などを通じて食べる機会が増え、おいしさを覚えれば、需要はまだまだ伸びるとみられる。また、今回調査した量販店で見られたように、加工品、総菜などの製品の高付加価値化や、生鮮ブロック肉から、精肉パック、冷凍品といった販売形態の多様化が、地理的な広がりをもって進展していくであろう。さらに、日系外食レストランで、牛肉100%のハンバーグのような、おいしい日本の洋食の味を覚えた中国人が、新しい食肉消費習慣を定着させていく先導役となることも大いに期待される。

 中国の豚肉の消費動向については、牛肉や家きん肉との関連性を含め、今後とも注視していきたい。





【参考資料】

・ 第5回世界豚肉会議資料

・ 中国国家統計局「中国統計年鑑」各号

・ Wang, J. M. , Zhou, Z. Y. and Cox, R. J. (2005), ‘Animal Product Consumption Trends in China’, Vol. 13, Paper 2, Australian Agribusiness Review.

・ 米国農務省(USDA)「China, Peoples Republic of, Livestock and Products Semi-Annual Report 2009」
http://www. fas. usda. gov/gainfiles/200903/146327423. pdf

・ 米国農務省(USDA)「Livestock and Poultry: World Markets and Trade」2008年10月号
http://www. fas. usda. gov/dlp/circular/2008/livestock_poultry_10-2008. pdf

・ 藤間雅幸:これからの中国のトウモロコシ需給について〜純輸入国への転換の可能性〜、「畜産の情報」 平成21年6月号
http://lin. alic. go. jp/alic/month/domefore/2009/jun/spe-02. htm

・ 谷口清:中国の豚肉価格の動向とその背景、「畜産の情報」海外編 平成20年1月号
http://lin. alic. go. jp/alic/month/fore/2008/jan/spe-01. htm

・ 谷口清:中国の豚肉備蓄制度、「畜産の情報」海外編 平成19年10月号
http://lin. alic. go. jp/alic/month/fore/2007/oct/spe-02. htm

・ (独)農業・食品産業技術総合研究機構:「農流技研会報No. 253」2003年

 

元のページに戻る