海外情報  畜産の情報 2013年5月号


チリ・ペルーの豚肉生産事情と今後の輸出可能性

調査情報部 横打 友恵

【要約】

 チリの豚肉産業は、リスク管理プログラムの強化等により安定的な進展を続けてきたが、最近の飼料穀物価格の高騰は、国内の豚肉生産に影響を投げかけている。一方、各輸出企業では、主にアジア向け輸出を中心とした輸出戦略の中で、専用ラインの設置や国際規格の取得促進などによる輸出市場の拡大を図っている。

 ペルーでは、伝統的に鶏肉の消費量が多く、豚肉産業はいまだ成長段階にある。しかし、2013年5月には、OIEにより口蹄疫清浄化が認められる予定であることから、国・業界共に、国内の生産と輸出の拡大に力を入れつつある。

1.はじめに

 チリは、我が国の豚肉輸入国として米国、カナダ、デンマーク、メキシコに次ぐ第5位にあり、シェアは4%(2012年)と少ないものの、安定的な輸入先の一つである。チリの養豚生産の形態は、日本と同様に配合飼料を中心としているが、その原料は主にアルゼンチンからの輸入トウモロコシに依存するなど、輸入飼料を中心とする点では日本と共通している。

 一方、ペルーでは、伝統的に鶏肉の消費が主流であることから、豚肉産業はいまだ成長段階にあるが、2013年5月に予定されているOIEによる口蹄疫清浄化を踏まえ、国を挙げて今後の豚肉産業の育成・輸出の強化に力を入れ始めている。

 チリ・ペルーは、いずれも日本との経済連携協定(EPA)が発効済みであり、豚肉の関税割当枠が設定されている。また、両国は共に環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加国であり、豚肉輸出への関心が高い。

 本稿では、チリについては、これまでにも海外情報等で取り上げてきたことから、最近の需給動向を中心に、またペルーについては、今回初となることから、生産状況及び今後の輸出余力等について、現地の情勢を交えながら報告する。

*チリの豚肉関連レポート

 ・「民間主導でトレーサビリティシステムの向上に努めるチリの豚肉流通」(2008年12月)
 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2008/dec/gravure.htm

 ・「飼料穀物価格が上昇する中でのチリの豚肉生産」(2008年8月)
 http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2008/aug/gravure2.htm
参考1 チリ及びペルーの一般概況
資料:FAOSTAT
参考2 チリ及びペルーの豚飼養頭数等(2012年)
資料:チリ農業政策・調査局(ODEPA)、ペルー農業省(MINAG)

2.チリ

(1)最近の豚肉生産動向

 チリの豚肉生産・輸出を取り巻く情勢として、チリ産豚肉のダイオキシン混入問題を受けた韓国の輸入停止(2008年7月)、米国に端を発した国際金融危機の影響による世界的な経済停滞(2008年9月)、新型インフルエンザ発生に伴う豚肉への風評被害(2009年5月)、チリ中南部地震の発生による生産被害(2010年2月)など、この数年、チリ産豚肉の需給に影響を与える出来事が続いた。このため、2009年と2010年の豚肉生産は、2年連続して前年実績を下回った(図1)。

 2012年の豚肉生産量は、58万3673トンと前年比10.6%増となったが、これは、チリ最大手の豚肉企業であるAgrosuper社が運営する大規模養豚場の環境問題により、多くの豚がと畜、出荷に向けられたことが影響するなど、実質的な生産の回復には至っていない。

参考:Agrosuper社の環境問題

 チリの豚肉生産の約7割を占める最大手の同社では、2005年に最大飼養頭数15万頭規模の繁殖雌豚を有する施設をチリ北部(Huasco)に設置し、徐々に頭数を拡大させてきたが、2012年5月、悪臭に抗議する近隣住民が養豚場に通じる道路を封鎖し、飼養されていた豚の大量死する問題が発生した。このため、環境省は飼養可能な母豚頭数を8万頭までに縮小することを決定した。

 悪臭の原因は、浄水システムにおける無臭化装置が機能しなかったこととされていたが、大幅な計画変更を余儀なくされたことで、同社は5年間で飼養頭数を倍増する同計画の無期延期を決定し、母豚への種付けを中止、すでに生まれていた子豚を肥育、出荷し、2013年3月中には生産を終了した。

 浄化された水はプラントの洗浄や近隣に植樹したユーカリ林への灌がい用水に使用するなど、砂漠地帯での大プロジェクトであったが、この緑化計画もとん挫する結果となった。

表1 飼養頭数の推移
資料:INE(チリ国家統計院)
  注:年別は12月末日現在。ただし、2012年は6月末日現在。
図1 生産量およびと畜頭数
資料:ODEPA

(2)飼料需給動向

 養豚向けの飼料は、輸入穀物への依存度が比較的高く、輸入割合はトウモロコシは30%、大豆は100%、ソルガムは99%となっている。

 トウモロコシについては、国内生産も増加しているが、養豚の生産規模拡大のスピードに供給が追い付いておらず、豚肉生産が増加すれば、今後、輸入飼料への依存割合はさらに増すものとみられる。

 これまでトウモロコシの主な輸入元は、米国、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイであったが、2012年は、米国、ブラジル産のトウモロコシ価格が上昇したことから、より安価なパラグアイ産にシフトする動きが目立った(表3)。

 飼料費は、豚肉生産コストの約7割を占めることから、飼料価格の高騰は生産に大きく影響するが、チリでは、政府による生産者に対する補助金や低利融資など生産者への政策支援は行っていない。このため、養豚生産者は、いずれも企業努力により生産の効率性を図る一方で、穀物価格については、「危機が過ぎるのを待つ」として、その推移を見守っている。
図2 飼料価格の比較
資料:ODEPA
表2 チリの生産コスト
資料:PIC社
表3 トウモロコシの国別輸入量の推移
資料:ODEPA
表4 ソルガムの国別輸入量の推移
資料:ODEPA
表5 大豆かすの国別輸入量の推移
資料:ODEPA

(3)輸出動向

 チリの主要豚肉パッカー5社(AASA社、Agrosuper社、Coexca社、Friosa社、Maxagro社)により組織される「CHILE PORK」は、主にアジアを販売のターゲットとしており、各社ともアジア向けに専門の生産ラインの設置や、細かいニーズへの対応など、輸出促進に力を入れている。

 チリ最大の輸出先である日本向けは、現在、冷凍品のみの輸出となっているが、第2位の輸出市場である韓国向けには、一部冷蔵品の輸出を開始した。アジア向けの冷蔵品輸出は、カナダ、米国が優位にあるが、各社は、ISO9001、ISO14001やHACCPなど国際規格の認証等の取得を進め、これらの付加価値で対抗していくという動きを見せている。

 また、今後の輸出先として各社が最大の関心を寄せているのは、2011年に輸出解禁となった中国である。現在、中国向けの特徴としては、頭、豚足、耳などの低価格部位に需要が集中しているが、経済成長に伴い中国国内の豚肉需要が拡大する中で、日本や韓国向けと同様に高級部位の輸出増も期待されている。

 アジア以外の輸出市場としては、南米のコロンビア向けに、ハム・ソーセージ用の骨なしモモ肉が主な品目となっている。2011年に市場を開放したインドも、輸出実績はわずかであるが、新たな開拓先として期待される国の一つである(図3,図4)。

 チリの豚肉は、米国やブラジルのように一定規格のものを大量に供給することで輸出先の市場占有を図ることは困難なことから、各企業では、カット肉や串刺しなどの付加価値製品の輸出拡大や輸出先の多様化により様々な部位の販売を行うなど、他国とは異なる輸出戦略を図っている。
表6 チリの豚肉輸出量の推移
資料:ODEPA
  注:冷蔵及び冷凍肉、製品重量ベース
図3 国別輸出額の割合(2012年)
図4 国別輸出量の割合(2012年)
資料:ODEPA

(4)今後の見通し

 ODEPAによると、2013年には、生産コストの上昇から豚肉の輸出市場における競争力低下が予測されている。また、原油価格に比例して、エネルギーコストの上昇も予想されるため、チリ産豚肉の国際競争力はさらに低下していくとしている。

 また、米国での干ばつによる穀物価格の上昇や最大手のAgrosuper社の増頭計画の中止が公表されたことにより、今後の成長を維持することは困難であり、新たな増産計画等もないため、2013年の生産は横ばいあるいは若干の減少が見込まれている。

 一方、国内市場を見ると、豚肉への需要が高まりつつある。チリの国民は食生活に対して保守的と言われているが、ここ数年の企業のマーケティング活動が功を奏し、豚肉に対して「ヘルシーミート」といったイメージの改善が図られてきている。このため、2012年の年間1人当たりの消費量は26.5キログラムと、2005年の19.3キログラムから大きく伸びており、今後の成長が期待されている。

 環境問題や生産コストなどの課題はあるが、チリは近年、口蹄疫、豚コレラといった家畜疾病の発生がない南米随一の衛生基準の高さを誇ることから、中期的には、国内需要がけん引し、堅実に成長していくものとみられる。

3.ペルー

(1)豚肉生産の状況

 ペルーの養豚は次の3タイプに分けられる。

(1)裏庭養豚(家族経営):一般的に自家消費又は地場消費向けに生産を行い、
山岳地帯と森林地帯に多い。

(2)半先進的企業養豚(商業経営):技術不足、品質的に未熟で、沿岸地帯に多く存在する。
 地元の市場や未登録の加工業者に供給される。

(3)先進的企業養豚(近代的商業経営):中部地域のリマ、南部地域のイカ、アレキパ、
 北部地域ラ・リベルタ、ランバイエケ、サンマルティンの主要都市に位置する。技術、
 生産性、品質も高く、量販店チェーンやハム・ソーセージ製造業者に供給される。
 中でも主要企業として、San Fernando社、Atahuampa PIC社、 Pechisa社、Sinchi社、
 Avicola Yugoslavia社の5社が主要な生産者として挙げられる。

 ペルーでは、上記の主要企業の中でも技術的に先進的な企業2〜3社が、国内生産量の70%を占める一方、経営体数では裏庭養豚が70%を占めている。チリのような垂直統合化は進んでおらず、インテグレーション経営は現在1社のみであり、生産農場とと畜・加工施設は別会社というのが一般的である。また、生産者の多くはペルー養豚生産者協会(ASOPORCI)に加盟しており、商業生産の8割を会員企業でカバーしている。ペルー養豚生産者協会は1986年に設立され、ペルー農業省(MINAG))、ペルー国立農業衛生局(SENASA)、国連食糧農業機関(FAO)等と協力関係にあり、ペルー養豚業の振興に寄与している。

 地域別ではSierraと呼ばれる山岳地帯に多く飼養され、次いで沿岸地帯、森林地帯となっている。リマを中心とした沿岸地帯での商業生産に比べ、内陸部では自家消費のために生産される傾向が強い(図5)。
図5 飼養頭数の地域別割合
資料:INEI

 国家統計情報院(INEI)の第4回農業センサスによると、豚総飼養頭数は205万8千頭(2012年11月現在)であり、前回(1994年)調査時から、5.9%減少している。これは裏庭養豚の小規模経営が徐々にリマ市を中心とした商業経営に取って代わったためと見られる(表7)。
表7 農業センサスによる飼養頭数の推移
資料:INEI
図6 地域別豚飼養頭数の分布(2012年)
資料:INEI
 豚肉の生産量は、2005年以降10万トン台に到達し、その後、着実に推移してきたが、ペルーでは豚肉が非衛生的な食肉として考えられる傾向があり、消費量が少ないことから国内供給量を十分に賄っている。

 1頭当たりの枝肉重量(内臓と足先を取り除き、頭と皮がついた状態)は51.1キログラム(2012年)と他国に比べ小ぶりである。ペルーでは子豚の消費が多いわけではなく、6カ月齢、生体重量84キログラム前後でと畜されることから、子豚用の早期と畜は考えにくく、おそらくは飼料による問題ではないかと推測される。農業省では、豚肉生産拡大のため、出荷時の生体重量を90キログラムとすることを目標にしている。
表8 豚肉生産量およびと畜頭数の推移
資料:MINAG
 ペルー養豚生産者協会によると、ペルーで導入されている品種は米国のPIC社のハイブリッド種が全体の80%を占め、カナダのTOPIG社の系統が10%、ヨーロッパ種が10%である。
図7 ペルーの養豚産業フロー
資料:Atahuampa PIC社
 一方で、農業省によれば、加工向けには、脂肪分が少なく、ハムにした場合の歩留まりが良いとのことで、ランドレース、デュロック、大ヨークの三元交配種を取り入れているとしている。しかし、消費者はランドレースや大ヨークといった「白い」豚を好む傾向にあり、三元交配種はまだまだ普及しているとは言い難い。

(2)輸出入動向

(1)輸入

 ソーセージなどの加工向けとして、トリミング(端材)の輸入が全体の約5割以上を占めている。主な輸入先としてはチリが92%(2012年)を占め、その他カナダ(5%)、米国(3%)である。
表9 部位別輸入量の推移
資料:ASOPORCI
(2)輸出

 2000年にアンデス共同体加盟国への輸出を目指して、ペルー養豚生産者協会では、農業衛生局と協力して、規格を制定した。この規格に基づき、2002年には農業衛生局により、5社の養豚場がボリビア、コロンビア、エクアドルへの輸出基準に準拠した施設として承認されている。

 2002年には認可された施設からエクアドル向け輸出を開始したが、同国の特定部位に限った輸入規制や高い関税率などに阻まれ、現在は部分肉ではなく、主に生体で輸出し、エクアドルでと畜を行っている。

 部分肉での輸出は徐々に増加しているものの、数量はわずか年間350トン程度である。これは、衛生面での問題があり、輸出可能なと畜処理施設等の整備が遅れていることが、大きな理由である。
表10 豚肉輸出入量の年別推移
資料:ASOPORCI

(3)国内消費の動向

 ペルーにおける豚肉消費量は、南米の中でも最も低く、消費が最も多いチリの6分の1に過ぎない。ペルーでは鶏肉の価格が安いことや豚肉が非衛生的と考えられていたこともあり、伝統的に鶏肉の消費が多い。1人当たりの年間消費量(2012年)でみると、鶏肉は37キログラムと1990年から3倍に増加しているのに対し、豚肉はほぼ横ばいで推移し、わずか4キログラムにとどまっている。

 豚肉の消費は、ハム、ソーセージなどの加工品が中心であるが、加工品の場合でも直接消費するのではなく、料理の食材として使用するのが一般的である。
リマ市内にある市場内の精肉店
同市場内の内臓専門店
 豚肉の消費がこれまで伸びてこなかった理由としては、(1)残飯で飼養されているため衛生的ではない、(2)脂肪やコレステロールが多く含まれているため、健康に良くない−などマイナスのイメージが広く浸透していたことによる。

 このため、ペルー養豚生産者協会では、毎年「父の日」に合わせ、6月第3土曜日を「チチャロン(豚肉のから揚げ風)の日」と定め、レストランで豚肉を使ったレシピの提供や、主要地域でのイベント開催など、豚肉の消費促進に力を入れている。また、所得の向上により、鶏肉よりも高値である豚肉の購買意欲の高まりにも期待が寄せられている。一方で、豚肉の消費量の増加に対応した供給体制の未整備が大きな課題となっている。
チチャロン(豚肉のから揚げ風)のサンドイッチ
表11 南米における年間1人当たり豚肉消費量(2011年)
資料:コンサルタント会社調べ
図8 食肉別1人当たり年間消費量
資料:INEI
表12 ペルーの豚肉調製品生産量の年別推移
資料:ASOPORCI
  注:モルタデーラはイタリアボローニャで伝統的に作られたソーセージ。
豚肉の特徴的なカット(訪問先企業のカット)
Corte mariposa(バタフライ型カット):ネックの部分を輪切りにしたもの。
キャッサバや豆などと一緒に煮込むことが多い。

Pierna entera(モモ):ヒレ部分も含まれているため、
カットの際に一番気を使う部位とのこと。ペルーでは最も高級とされる部位。
Cabeza entera(頭):骨付きでおよそ8キログラム。
タン、耳、軟骨、それ以外の頭部をすべて使用し、ダイス状とし、
サンドイッチの具材などハムと同じように消費する。

(4)生産現場の状況

 鶏肉のインテグレーターとして国内最大手のSan Fernando社は、創業者が日系人であり、操業開始から60年経つ現在も日系人による経営となっている。同社は、鶏肉(ブロイラー及び七面鳥)生産では国内トップであり、鶏のブランドとして国内市場に浸透している。

 豚肉生産については、リマ市周辺に3カ所の繁殖施設を所有しており、リマ市から南に60キロメートルに位置する母豚1,200頭規模の施設を訪問した。

 この農場では、週に700頭の子豚(24日離乳、平均6.6キログラム)を生産している。子豚は肥育施設に移された後、約160日齢、生体重量100キログラムで出荷される。繁殖成績は1回当たりの分娩頭数が13頭であり、へい死率が約5%のため、離乳時の頭数は一腹当たり12.3頭となる。母豚は平均6産、2年半で更新している。飼料は2カ所ある配合飼料工場で生産された自家配合飼料を給与している。

 畜舎ではストール飼いを行っており、母豚のストールは約60センチの幅である。EUでは、2013年1月からアニマルウェルフェア規制が強化され、繁殖母豚のストール飼いが禁止されることとなったが、同農場でも昨年あたりからEUのアニマルウェルフェアを念頭に準備を進めており、今後、EU向け輸出を開始するための施設の改善が予定されている。

 また、2年前から子豚へのストレス軽減、アニマルウェルフェアの観点からインプロバック(注:外科的去勢を行わず、雄独特の臭いをコントロールする免疫学的去勢製剤)を導入している。(ただし、ペルー全体にこの傾向がみられるわけではない。)

(5)飼料需給動向

 ペルーでは、白く粒が大きい食用トウモロコシ、飲料や菓子向けなどの紫トウモロコシなど、様々なトウモロコシが生産されているが、飼料用トウモロコシは必要量の約5割(120万トン)を輸入に頼っており、主な輸入元はアルゼンチン、米国である。2012年は、米国の干ばつにより米国産トウモロコシが高騰したが、ペルーは歴史的に米国との結び付きが強く、トウモロコシの調達先を変更する動きは見られない。また、タンパク質飼料としての大豆かすはボリビアから輸入している。

 農業省によると、生産コストのうち飼料費が76%(うちトウモロコシが60%)を占めていることから、世界的な穀物需要の増加により、ペルーにおける豚肉生産コストも上昇している。
表13 ペルーの生産コスト
資料:PIC社
市場内の青果店には天井から数種類のトウモロコシが吊り下げられている。

(6)輸出企業の動向

 と畜業の大手であるFrigo JOSAC社は、国内に5カ所ある農業衛生局の認定施設であり、豚は農業衛生局の登録農家からのみ搬入している。1日当たりのと畜頭数は豚の場合300頭となっている。通常は、足と内臓を落とし、頭と皮はついたままのものがと体として一般に取引されており、委託先へはこの状態で返却されるが、量販店などに委託されて部分肉に加工する能力も有している。1日のと体処理頭数は60頭前後となっており、各スーパーマーケットのパッケージに詰めて出荷される。

 1頭当たりのと畜費は、現金ではなく内臓などを受け取り、これを売却して代金に代えることが多い。しかし、近年、内臓価格が下落していることや排水処理施設の建設など環境への配慮が必要とされていることから、現在では、1頭当たりの枝肉重量を75キログラムで換算すると、10〜11ドル程度をと畜費として設定し、これに18%の付加価値税(IVA)が加算される方式も採用されている。
 Frigo JOSAC社がと畜を主体としているのに対し、Sociedad Suizo Peruana de Embutidos S.A社は同じく農業衛生局の認定施設ではあるが、養豚場から生体(雌と去勢した雄のみ)を購入し、自社製品の製造目的での処理、加工を行っている。1日当たりのと畜頭数は250頭で、と畜は週5日実施している。また、ハム、ソーセージ等の生産量は1月当たり650トンとなっている。工場では250人の従業員が午前8時から午後10時までと午後10時から午前8時までの2シフトで勤務し、月曜から土曜日まで稼働している。

 現在、年内の完成を目指して、敷地の拡張工事を進めており、1日当たりの処理頭数を現在の200頭から600頭へと3倍に増加する予定である。

 また、同社のハムなどの調製品は、ペルー国内の富裕層向けのブランドとして高値で取引されており、輸出市場開拓への意欲は高いが、国内市場での評価が高く、輸出市場に向けて量を十分に確保できるかどうかが今後の課題である。

(7)価格動向

 ペルーでは多くの小規模生産者が自家消費または地元の市場向けに養豚を行っている。彼らが商業市場で販売を行う場合は、多くの小規模生産者から豚を集めるacopiador(集荷人)と呼ばれる者によって価格が決定される。

 価格の決定は自由であり、国の関与はできない仕組みとなっている。集荷人は、開発途上国に共通するミドルマンであり、価格情報を十分に持っていないであろう地方の小規模・零細養豚生産者に対して不当に安い価格での買い入れを行っている。彼らはまた、飼料の供給の際にこれらの生産者に対して金銭の貸し付けを行うため、豚の販売の際に飼料代が差し引かれてしまい、小規模・零細養豚生産者の発展を妨げる要因にもなっている。
図9 生産者価格(2011年)
資料:MINAG
  注:現地通貨1nuevo soles≒38円
図10 小売価格(2011年)
資料:MINAG

(8)環境対策・トレーサビリティ

 トレーサビリティ等については、大統領令(002-2010-AG)により、「先進的および半先進的な養豚場登録名義者は、それぞれの手続きに関して定められたマニュアルに従って、トレーサビリティを確保するために適した方法により、識別する義務を負う」と規定されているため、企業単位では実施されており、耳標での管理が行われている。

 また、市街地の拡大に伴い、同大統領令において、養豚施設は他の養豚施設から3キロメートル以内、また畜産施設、住宅地、幹線道路などから5キロメートル以内にそれぞれ建設してはならないと定められている。豚の防疫対策については、農業衛生局が規定を定めており、同大統領令によって承認されている。

 この規定によれば、既存の施設は国道沿いにあるところも多く、このような施設は移転せざるを得ないが、これを投資のチャンスとみている企業もある。

(9)衛生状況

 南米諸国のうち、ペルーの衛生状況はチリに次ぐ地位にあり、現在、国内の88.44%が国際獣疫事務局(OIE)の口蹄疫ワクチン非接種清浄地域に認定されている。農業省によると、当該地域には総飼養頭数の約5割の豚が存在している。農業衛生局による認定では、国内の98.27%がワクチン非接種清浄地域であり、2013年5月にはOIEの総会で認定される予定である。残りの1.73%はエクアドルとの国境沿いがワクチン接種清浄地域である。なお、FAOペルー事務所によれば、ペルーとエクアドルの衛生当局が共同で実施した調査で、口蹄疫の問題があるのはエクアドル側の国境地帯ではなく、国境から離れた首都キト周辺であることが判明している。

 これらの認定は農業衛生局による口蹄疫プログラム(PRONAFA)の実施に基づいている。これはFAOがペルーを含むアンデス共同体のペルー、エクアドル、ベネズエラおよびコロンビアで行っている口蹄疫対策の地域プロジェクトの支援による。

 また、FAOとOIE共同で豚コレラの対策も行っている。これは、国内の71%を占める小規模生産者(38万戸)に対してワクチン接種の支援を行うプロジェクトで、現在2年目となっている。農業衛生局は、2014年にはOIEによる豚コレラの清浄化の認定を受けたいとしている。

 なお、母豚20頭規模の繁殖農家は、ワクチン接種の全国的に漏れのない実施のため、農業衛生局への登録が必要となっている。これにより、未登録農家の管理、規制を強化することになる。農業省によると、現在、闇で販売される豚肉の価格は通常の販売価格よりも5%安いため、正規の農家を保護・支援し、母豚の飼養頭数を増やし、国内の豚に関する不当競争を防ぐことを最優先にしている。
図11 ペルーの衛生ステータス
資料:SENASA
  注:緑の部分がワクチン非接種清浄地域、オレンジの部分が
    ワクチン接種清浄地域
 また、ペルー養豚生産者協会では、衛生状況の改善により、今後2年間でEU、日本、韓国などEPA・FTA締結国への市場アクセスを開きたいとしている。

(10)輸出に向けた動き

 日本とペルーの間では、2012年3月1日にEPAが発効し、両国間の貿易額の99%に相当する品目の関税を10年間で撤廃することとなっている。農産物の扱いでは、日本側は豚肉や鶏肉などに関税割当枠を設定し、低関税の輸入枠(枠内2.2%)を拡大することとしており、この低関税枠は豚肉については、5年間で5,000トン、鶏肉・鶏肉調製品は5,500トンまで増やすこととなっている。 2013年5月にはOIEでFMD清浄化が認められる予定もあり、ペルー養豚生産者協会では、国として輸出に力を入れていくと共に、業界も一気に活気づくものと期待している。また、日本との関税割当枠を有効に活用した日本向け輸出を可能とするため、日本の衛生基準、要求事項等詳細に把握したいとしている。

 さらにペルーはTPP交渉参加国であり、豚肉については、関税撤廃の立場でテーブルについている。一方で、米国などペルーより豚肉の生産コストが安い国に対しては、国内の養豚を守る立場から、原産地規則を完全生産品基準にすることで、ペルー国内で需要の高い豚肉調製品を守ろうと言う意向があり、相矛盾した主張となっている。

 関係者によると、4、5年前からペルー国内の経済状況は好転しており、消費者が摂取 する品目は、畜産物についても高価格のものとなってきている。現在のところ、豚肉と競合する鶏肉の伸びは著しいが、近い将来、食の変化が起こり、豚肉の消費が伸びることを期待しており、養豚はこれからの成長分野と見ている。

 ペルーの豚肉パッカーの中には、今後、自社のと畜場を建設し、インテグレーション化を進め、2014年には輸出認可を受ける計画を立てているところもある。

4.終わりに

 チリ、ペルーは、飼料穀物や畜産物の世界の供給国としてその地位を固めつつあるブラジル、アルゼンチンに比べ、その規模や国内関連産業の成熟度等はまだまだといった感がぬぐえないものの、ブラジル、アルゼンチン両国が国内産業を保護するために輸入規制を強化している中、自由貿易推進の動きを加速させ、攻めの通商政策に取り組んでいるという特長がある。

 チリは、日本、韓国、中国等アジア諸国を始め、世界60カ国以上と自由貿易協定(FTA)を締結しているほか、ブラジル、アルゼンチンなどが形成する関税同盟である南米南部共同市場(メルコスール)では準加盟国の地位を維持し、一方でメキシコ、コロンビア、ペルーとは「太平洋同盟(Alianza del Pacifico)」という経済共同体を設立している。経済成長も目覚ましく、GDPはポルトガルに追いつく勢いで、先進国の水準を目前にしている。

 また、ペルーについても日本、中国、マレーシア、タイなどアジア圏や米国、韓国とのFTAが発効済みであり、EUとのFTAも2013年3月1日に発効、5年以内にもも肉の完全自由化と豚肉製品の優先的なアクセスが認められるなどの状況にある。

 わが国への豚肉輸出動向等に関してみれば、チリはFTAの下、日本の豚肉輸入相手国として安定した地位を維持している一方、ペルーについては、日本の衛生条件等をクリアすることが前提とはなっているものの、過去には日本向け鶏肉輸出の実績もあり、豚肉についても日本への新たな輸入先となる潜在性を有している。


 
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