調査情報部 平石 康久、藤井 麻衣子、星野 和久
【要約】2010年11月28日に韓国慶尚北道にある養豚団地の豚に口蹄疫が発生した。韓国政府は第1例目以降、摘発とう汰による防疫措置を実施したが、口蹄疫の拡大を防ぐことはできず、国内すべての牛、豚などを対象にしたワクチン接種の実施により封じ込めを講じることとなった。 今回の口蹄疫による被害は甚大で、家畜の処分は国内で飼養されていた牛の約5%、豚の約35%に及び、韓国の畜産業に大きな影響を与えた。特に、養豚業と酪農は深刻であり、豚肉と乳製品の生産が回復するには2012年後半まで要するものと見込まれている。 政府は、畜産需給への影響を緩和するため、緊急価格対策として豚肉、乳製品などの無税あるいは低率の関税割当数量を設け、畜産物の価格安定を講じた。 また、政府は、口蹄疫の発生を契機に畜産業が抱える課題を解決するため、畜産業を営む者の許可制の導入による畜産新生の方針を明らかにしている。 口蹄疫の発生などに伴う畜産業の生産構造の変化など、大きく変貌しつつある韓国の動向を報告する。 1 韓国における口蹄疫発生の概要と防疫措置口蹄疫は牛や豚など偶蹄類に感染するウイルス性の疾病で、発熱とともに口腔や蹄などの水疱形成を特徴とする家畜に重とくな症状を示す悪性伝染病である。このため、畜産業に与える影響は大きく、世界の国・地域では、国際獣疫事務局(OIE)のマニュアルに準拠した防疫措置により、発生の予防や感染時のまん延防止の徹底を図っている。 (1)最近の発生概要韓国では2000年3月に66年ぶりに口蹄疫の発生が確認されて以降、2002年(5月)、2010年(1、4、11月)に発生が確認されたため、口蹄疫ウイルスの侵入の警戒を強めている。 韓国はこれまで、感染家畜を早期に摘発し殺処分・埋却する「摘発とう汰」を行っており、2010年4月までの発生は限局的かつ短期間に終息し、国内の畜産業界や食肉需給に与える影響は一時的であった。 しかし、2010年11月の発生はこれまでになく大きなものとなった。発生から2011年4月までの5カ月間で国土の約8割を占める5市6道に感染が拡大し、発生規模は牛、豚など155件で約33万頭に及んだ。発生当初はこれまで同様に「摘発とう汰」による防疫措置を行ってきたが、過去、例のない早さで感染が拡大したことから、韓国政府は「摘発とう汰」に加え、全国的に「ワクチン」も併用した防疫措置に切り替えた。韓国農村振興庁によれば、畜産および食肉産業への損失を含めて、11月に発生した口蹄疫による経済的被害は7兆8000億ウォン(注2)と試算されている。
(2)2010年11月発生の防疫概要1)初発の経緯および防疫措置 初発は慶尚北道安東市にある養豚場(飼養頭数3,500頭)で確認された。2011年11月26日、農場主は口蹄疫の疑いのある症状がみられる豚を確認したため、その日のうちに地域獣医官により迅速診断キット(Pen-Side Kit)を用いて口蹄疫の抗体の有無を確認したが陰性であった。しかし、その後も水疱や潰瘍などが確認されたことから、国立獣医検疫科学院に検査材料を送付し、抗原検出ELISA法やRT-PCR法により精密な検査を実施したところ、11月29日、材料から口蹄疫ウイルスによる感染を確認した。同じ時期にほかの2農場(牛1、豚1)においても発生が確認されている。 発生農場では、直ちに防疫措置が執られ、人や車両の農場への出入りを規制し、飼養家畜すべてを殺処分・埋却した。また発生農場を中心に半径500mおよび3km地点に消毒ポイントを設置し、移動車両の消毒を行うとともに、半径10km以内の偶蹄類家畜の移動を制限した。さらに、半径3km以内の偶蹄類家畜は、感染の有無にかかわらず、殺処分・埋却をした。 国際的に、発生農場や感染家畜と疫学的に関連する農場を対象に厳格な防疫措置を執ることが求められている。今回の発生において、発生農場を中心とした一定の地域において非感染の家畜も殺処分の対象とした「予防的殺処分」を行ったことは、一刻も早く口蹄疫ウイルスのまん延を抑止することを狙ったものであった。 2)緊急ワクチン接種 初発のウイルスの封じ込め対策にもかかわらず、初発農場の近郊では33農場(牛28、豚5)に次々と口蹄疫の発生が確認された。さらに、12月15日には初発農場から約200km北上に位置する京畿道や仁川市、12月22日には江原道、12月28日には忠清北道、忠清南道まで感染が一気に拡大していった。 今回は、今までのように限局的な発生にとどまらず、予想以上に感染拡大の早いことから、韓国政府では12月22日よりワクチンの使用を検討し始めた。ワクチンの使用は、業界関係者からの反対意見、貿易上の経済的影響、海外に与える負のイメージなどを考慮しながら、検討開始から3日後(12月25日)に接種を決定した。 政府の方針は、まず感染が確認された地域において緊急的にワクチンを接種するというものであった。発生時の防疫措置も併せて見直され、発生農場で感染家畜と同居した家畜の殺処分や発生農場周辺の「予防的殺処分」は止め、移動制限範囲は発生農場を中心とした一定の半径で規制を行うのではなく、発生農場と疫学的に関連する農場のみに見直しを行った。
3)全国ワクチン接種 政府による韓国口蹄疫清浄化作業手順マニュアルでは、発生の状況に応じて、「関心」(青)、「注意」(黄)、「警報」(橙)、「深刻」(赤)とアラートを規定している。12月29日、発生が依然、拡大していることを受け、政府は口蹄疫の発生では初めて「深刻」段階にあると公表した。 2011年1月13日、政府はワクチン接種範囲を未発生地域(全羅北道、全羅南道、済州道)まで広げたことにより、全国の牛と豚がワクチン接種の対象となった。 韓国では2000年の口蹄疫発生でも発生地域を中心に限局的な緊急ワクチン接種(リングワクチン)を行った経験があるが、全国的に義務付けるのは今回が初めてのケースとなる。同時に、韓国の口蹄疫対策は「ワクチン」を全面的に使用する防疫措置へと大きく方針転換したこととなる。その後、1月18日には大邱市、1月24日には慶尚南道、釜山市、2月14日には大田市、2月26日には蔚山市まで発生は拡大していった。全国で2回のワクチン接種が完了してからは発生が終息したため、政府は4月3日、すべての防疫措置が完了したことを公表した。
4)最終発生 いったん終息したかに見えたものの、4月16日に慶尚北道で再び発生が確認された。直ちに、発生農場における感染家畜の殺処分・埋却、同居豚の追加ワクチン接種、消毒、移動制限など実施した。その結果、これまで感染の拡大はみられていない。 初発から6カ月以上経過した6月19日、政府は、口蹄疫発生による危機はなくなり、事態は平常に戻ったとして、「関心」段階となったことを公表した。 (3) 2010年11月発生時における防疫措置等の特徴1)初動対応 韓国の関係者によれば、初発(慶尚北道安東市)の感染確認まで3日を要したことが、安東市から京畿道まで口蹄疫ウイルスの伝播を許した要因となったとする。2010年11月26日に異状を確認してから防疫措置を開始された29日までの間にふん尿運搬車両など畜産関係車両により、200kmの距離をウイルスが運搬された可能性が指摘されている。また初発が確認された2010年11月末は、例年になく寒波が到来しており、場所によってはマイナス30度の中での消毒や殺処分・埋却の作業となった。このため、効果的な消毒を行うことができず、きめ細かな作業も困難となったため、ウイルスを封じ込められなかった可能性があることも指摘されている。 さらに、韓国では、当初、発生農場を中心に、半径3kmあるいは500m以内の牛、豚などについて「予防的殺処分」を行い埋却するとしていたが、これにより、初発から約3週の間に、数百万頭の家畜の処分を行う事態が生じ、最終的な埋却対象は、発生頭数の約10倍まで膨らみ6,088戸、約315万頭となった。膨大な頭数の処理を迅速に行わなければならない状況にあったが、今回は、2010年4月までの発生の対応と異なり、殺処分・埋却は軍隊の協力を得ることができなかったため、行政職員や畜産関係者のみで実施することとなった。この点についても、極寒の屋外で行う不慣れな作業は非効率的なものとなり、埋却処理を順調に進めることは非常に厳しかったことが指摘されている。
2)ワクチン接種 OIEでは世界の国・地域の口蹄疫の清浄性ステータスを認定しており、韓国はこれまで、ワクチン接種を行わない清浄国(ワクチン非接種清浄国)として認定されていた。これは最も口蹄疫の清浄度の高いステータスであり、通常、このような国・地域では、万が一の口蹄疫発生における防疫は摘発とう汰でウイルスの撲滅を図る。韓国でも発生の当初は摘発とう汰により防疫措置を実施してきた。しかし、今回のウイルスのまん延は速く、最初の発生(11月29日)から約3週後(12月22日)までに3道1市で発生累計50件と爆発的な感染となった。このため、韓国政府は12月25日、感染地域でワクチン接種を開始することを決定し、翌年1月13日、さらに全国でワクチン接種を行うことした。 韓国では口蹄疫ウイルスOタイプワクチンを30万頭分備蓄していたが、数百万頭もいる全国の牛、豚すべてに対応させるためには不足していたため、ワクチン製造メーカーへ至急の製造を依頼するなどして確保した。2月25日までに全国の牛と豚に2回のワクチン接種を終えたことから感染の拡大は急速に治まっていった。現在ではOタイプのみならず、アジアで流行している3価(O、A、ASIA1)のウイルスを混合したワクチンを年2回、牛、豚に接種することを義務付けている。 3)感染源 原因ウイルスは口蹄疫ウイルスOタイプであり、2010年4月に感染が確認されたものと遺伝子レベルで非常によく似たものであった。韓国獣医検疫科学院では、4月の発生後、これまで、全国で約10万検体のサーベイランスを行い、いずれも陰性であることを確認していた。このため、2010年4月のウイルスが国内に残留し、再び感染の原因となったことは考えにくいとする。また、今回のウイルスは、東南アジアや日本(2010年4月発生)で分離されたウイルスと遺伝子レベルで似ているが、これらとの関係は判明していない。 4)清浄化の見通し 韓国はこれまで、日本と同様に、ワクチン非接種清浄国のステータスを維持してきたが、今回の発生を踏まえ、今後はワクチン接種を行いながら全国のウイルスの清浄化を進めていくことなる。関係者によれば、まずはワクチン接種清浄国のステータスを目標とするが、最低でも2年はかかると言われている。 生産者一人一人の防疫への意識の向上が欠かせないことから、行政では生産者に対し必ずワクチンを接種するよう啓発を行うことで一刻も早い清浄化を目標としている。 2 口蹄疫が韓国食肉需給に与えた影響(1)殺処分された家畜数口蹄疫によって大規模な殺処分・埋却などが行われたため、韓国の畜産生産は大きな影響を受けた。 飼養頭数に占める殺処分頭数の割合は、畜種によって大きく異なった。豚では33.6%と高く、牛では肉用種(大半が韓牛)4.0%、乳用種8.5%と相対的に低かった。ただ、殺処分の影響は軽微でなかった。殺処分された豚は韓国の輸入豚肉を含めた全豚肉供給量のおよそ1/4を占める割合に相当していたため、国民生活に欠かせない食品である豚バラ肉の高騰を招き、消費者物価指数の上昇の一因となっている。また、牛乳・乳製品については乳用種の被害がソウル市近郊の京畿道に集中したため、特にソウルでの価格の高騰につながった。
(2) 今後の飼養頭数および生産に対する見通し(2011年9月時点)1)牛(肉用種) 口蹄疫の影響にもかかわらず飼養頭数は増加しており、過剰傾向が続いている。口蹄疫による移動制限解除後、精液の販売量が増加したため、2011年1月以降も飼養頭数が増加に向かうと予測されている。飼養頭数の適正規模は250万頭とされているが、現在は300万頭を超える水準となっている。 口蹄疫の発生による移動制限の影響で人工授精が実施できなかったため、2011年9〜11月の子牛生産頭数(出生頭数)が大きく減少するとみられるものの、2011年12月での肉用飼養頭数の見通しにおいては、前年同月比では102%となっている。これは2009年後半から2010年4月ごろまで価格が上昇したことから飼育農家による旺盛な増頭が行われたことが影響している。 これに対し業界や政府は牛肉の安値販売等を通じて需給調整に取り組んでいる。 2)牛(乳用種)および生乳生産 口蹄疫の影響による乳牛の殺処分の影響で、通常時は1日あたり5,700トン(機構推計)生産割当があるなかで、2011年1月以降は5,000トン程度の生産しか行われていない。 乳牛については3月時点の頭数は減少し、未経産牛などの価格が高騰していることから、その後の飼養頭数の回復が遅れている。母牛について豪州から輸入することも計画されていたが、豪州側との交渉がうまくいかず頓挫したとされている。なお、ニュージーランドからの輸入は疾病の発生を理由に、韓国は輸入を禁止している。 一方で生乳の国内生産を刺激するためのさまざまな対策が講じられている。 まず割当制度については、期間限定で生産割当を5%増加させ1日当たり5,990トンとするとともに、少なくとも今年末まで、生産割当を超えた数量についても、割当数量内と同じ価格を支払うようにしている。 (韓国の酪農・乳業政策の概要については「4. 2010年までの韓国の畜産需給および酪農関連政策の概況」を参照されたい) これらに加え2011年8月より乳価が引き上げられたことから、生乳生産量は増加に向かうことは確実視されている。 2011年6月時点での酪農振興会の見通しでは、平年並みに回復するのは2012年後半になるだろうとの予想であった。
3)豚 豚については大規模な殺処分が行われ3月時点の飼養頭数が大幅に減少した。その後は飼養頭数は3ヵ月毎3%を超える伸び率で回復していくとみられている。これは、豚肉価格の高騰により生産者は原種豚の生産が間に合わないため、通常であれば肥育に仕向けられる雌豚(F2)を母豚にするなど早期の生産回復に取り組んでいるからである。 また、母豚(母豚候補豚を含む)に対して31,000頭の無税輸入枠が設定され、10,000〜15,000頭程度が年末までに輸入されるとみられており、生産回復の促進につながることが期待されている。 ただし、これら輸入した母豚などから生まれた肥育豚が出荷されるのは来年の後半になることから、F2による母豚代替などによる生産増加が予想を上回っていることを加味しても、回復は2012年後半以降にずれ込むとの見方が大半であった。 回復する飼養頭数の水準については従来と同じ1000万頭という声が多かった一方、FTA締結による意欲減退や畜産許可制の導入などにより、900万頭に満たないのではないかとの見方も聞かれた。 なお、FTAや口蹄疫の不安もあるなかで急速な生産回復の動きがみられる理由については、①現在の堅調な価格動向のほか、②畜産許可制によって新規参入の制限されることによる既存農家の先行利益への期待、③大規模化が進んだ農家が太宗を占めており、既に多額の投資を行っていることから養豚から撤退することは難しい、④口蹄疫の殺処分について100%補償が行われたことから、再導入が容易になった、などの意見が聞かれた。
(3)価格の変化1)牛肉 2009年後半に価格が上昇し、2010年春先まで価格は堅調であったがその後飼養頭数の増加圧力もあり、ほぼ一貫して下降基調にある。2011年に入っては口蹄疫の風評被害に加え、生産者団体による需給調整にむけた牛肉安値販売の取り組みもあり、価格は低水準で推移している。 と畜頭数については、例年新年を迎える1月および韓国のお盆である中秋(チュソク)の時期にと畜頭数が増える季節変動性を持っている。2011年2月には、口蹄疫による移動制限などの影響を受け、と畜頭数が前年を下回った。その後は団体や農協による需給調整のための牛肉の安値販売などの影響により、と畜頭数は前年を大幅に上回って推移しており、価格低落の原因ともなっている。
2)豚肉 長期的には生産コストや物価上昇の影響を受け、価格は上昇傾向にあるが、月別の需給ではと畜頭数の推移が価格に反映されている。口蹄疫の発生による豚の殺処分の影響によりと畜頭数も減少していることから、2011年には価格は大幅に高騰している。 今後11月ごろまでは需要が減少する時期であることから、価格上昇が抑えられる見込みであるが、その後年末から正月(旧正月を含む)にかけての需要期の価格上昇について懸念がある。
3)鶏肉 昨年末に発生した鶏インフルエンザの影響から飼育羽数は減少したが、口蹄疫の発生による豚肉からの代替需要を予測した生産者側の増産の動きに加え、鶏肉の無税枠の設定のタイミングが重なり価格は6月以降大幅に下落したが、生産調整が進み回復傾向にある。
(4)韓国口蹄疫後の消費の変化口蹄疫が蔓延している時期には、特に豚肉に対する消費減退がみられたといわれている。代替需要については特に鶏肉へのシフトがみられたとの分析がある。 ただし口蹄疫蔓延によるネガティブイメージによる消費代替は短期間のものであったとみられ、その後は豚肉価格の上昇による代替がみられた。 韓国農村経済研究院(KREI)農業観測センターが行った消費者の意向調査(2011年7月実施)によると、国産豚肉価格の上昇を理由に豚肉以外の食肉を購入したという回答は83%に上った。その内訳を見ると、鶏肉が36.0%、韓牛肉17.9%、カモ肉16.0%となっており、価格の安い鶏肉や、値引き販売対策などにより価格の下落傾向が続く韓牛肉の代替消費が増えたとみられる。 また、調査結果は消費者の買うテーブルミートを対象としているが、焼き肉店などの外食で利用される業務用食肉について一定程度の輸入豚肉や牛肉への代替があったものと思われる。
(5)輸入状況口蹄疫の発生による豚肉や乳製品の価格上昇およびそれに対する政府の無税の関税割当数量の設定によって、畜産品の輸入状況に大きな変化が生じている。 まず豚肉については、国産豚肉が担っていた冷蔵豚肉がひっ迫したことから政府の支援を受ける形での輸入が大幅に増加している。その中でもバラ肉が、賞味期限の問題から輸送日数の比較的短い北米からの輸入を中心に増加している。冷凍豚肉については、テーブルミート代替用途としての冷凍バラ肉がEU各国から輸入される一方、加工原料用の冷凍豚肉は関税割当数量の枠を利用し、北米より大量に輸入された。 聞き取りによれば、特に冷凍豚肉については、需要者側が今後も価格が堅調に推移するとみて輸入の手当てに走り、倉庫に保管される傾向にあることから、価格の引き下げにあまり役に立っていないとの声が聞かれた。 牛肉については、国内価格の低迷にもかかわらず輸入が増加しているが、以前米国産が減少する前に供給していたファミレスなどの外食用途が、韓牛とは違った市場を形成しており、そこからの需要が輸入増に結びついているとの説明が聞かれた。また一部の関係者からは米国からの強い売り込みがあったためとする意見も聞かれた。 乳製品については、豚肉よりも前年と比較した伸び率が大きくなっている。そのなかでも製菓、製パン業界などに利用される冷凍クリーム、粉乳類、バターが大幅な伸び率を示している。輸入先はニュージーランド、豪州、EU各国となっている。業界によれば政府による関税割当数量は余裕を見て設定されているため、上限数量までの輸入は考えにくいという意見であった。
3 政府による対策(1)物価上昇対策(無関税枠の設置ほか)韓国では昨年秋より物価が上昇している。これは韓国銀行の四半期レポートによれば原油価格や商品市場の価格上昇に加え、昨年の夏の猛暑や冬の寒波などの天候不順、口蹄疫などの家畜疾病の発生拡大などによる食料品価格の上昇が物価に影響しているためとしている。 そのため、韓国政府は2011年1月より物価上昇対策として物価安定総合対策を発表し、その一環として、輸入品の国内価格を下げるため、無税もしくは低率の臨時関税割当数量の設定をおこなった。 また、高騰する豚肉の価格安定および過剰傾向にある国産牛肉の消費拡大を目的とした対策も打ち出している。
(2) 畜産業先進化方策の主要内容(畜産業許可制、飼育頭数の制限)韓国の農林水産食品部は2011年5月6日に、防疫体系の強化および畜産業のレベル向上および再編を目指した「家畜疾病防疫体系の改善および畜産業先進化細部対策」(畜産業先進化方策)を発表した。 この中で、農林水産食品部は畜産関係者に対し、畜産業の許可制を導入すると定めている。 1)概略 一定規模以上(飼育面積50m2以上)の畜産農家(家畜飼育業)および関連業種(種畜業、孵化業、精液等処理業)に対し、許可がなければ畜産業が行えないという許可制度を導入するもの。飼育面積が50m2に満たない農家は届出のみである。 畜産農家については企業規模、専業規模、準専業規模、小規模と規模別に分類し、2012年から2015年まで段階的に導入する計画となっている。 許可停止措置3回や義務違反による疾病の発生、あるいはふん尿を不法投棄した場合、許可対象者が違反を起こした場合の罰則として、3年以下の懲役または3千万ウォン以下の罰金を科すことができるようになるとともに、許可取消および政策資金支援中断が講じられる。
2)許可基準について 畜産施設の立地、施設基準、単位面積当たり飼育頭数、教育基準の設定などが許可にあたっての基準となっている。 立地 「家畜ふん尿管理および利用に関する法律」上の住居密集地域、上水源保護区域等、他法による畜舎設置制限規定を適用するとともに、新規の制限として、地方道路以上の道路(20m)、河川(30m)、屠畜場・飼料工場・種畜場等、畜産関連施設(500m)の距離制限を設ける。 施設基準 口蹄疫のような疾病防止やふん尿処理の適性化に向けて畜産農家にも一定の対策を講じることを求める内容となっている。
単位面積当たり飼養頭数(例) 口蹄疫蔓延の原因の1つに密集飼育に問題があったとの反省から、単位面積当たりの飼養頭数について制限が設けられた。
教育プログラム 年間に必要な教育時間を、新規参入農家は80時間(10日)、飼育経験5年未満の農家は40時間(5日)、5年以上の農家は24時間(3日)、許可対象でない小規模農家も16時間(2日)の教育を義務付けた。 3)同方策に関する背景および課題 規制色の強い許可制の導入については、政府の強い意向が働いている。業界関係者によれば政府は許可制にすることによって小規模農家の離農を進めたい意向であるとされている。 また、韓国では無許可畜舎問題が存在し、建ぺい率などの建築基準法に違反する畜舎や政府に登録を行う上必要な基準を満たない畜舎(例えばふん尿処理能力が足りない)が存在している。 養豚業ではそういった豚舎が全体の2割(関係者の意見では飼養頭数ベースでは1割)程度あるとされており、政府は許可制の導入により違法建築構造の改善を図り、基準を満たせない農家の離農をすすめたいと考えているとの意見が聞かれた。 さらに、同方策が発表される前の政府および関係団体の話し合いでは、政府は牛や豚の飼養頭数について地域別に上限頭数を設ける飼養頭数の割当制度の導入を主張していたとされる。この飼養頭数の制限につながる仕組みについては、政府は断念しておらず、引き続き導入に向けての働きかけが行われているということであった。この飼養頭数の制限を意図については、後述するふん尿処理問題が背景にあるという指摘があり、事実、飼養頭数の制限でなく、地域別のふん尿の総量を規制するという考えも検討されている模様である。 4)業界による反応 関連団体からはまず、畜産を行うにあたって許可が必要であるという点について強い反対意見が存在している。しかしこの政策のきっかけとなった口蹄疫の蔓延に対する世論もあり、反対の声は大きくならなかった模様である。 さらに業界団体としてはこの規制よりもむしろFTAによる影響に対する懸念のほうが大きいということであった。 また、関連団体の協議を経て発表された現行案については、既存の農家(特に団体の構成員として力を持つ大規模農家)にとってはおおむね対応可能な内容であること、他業種からの新規参入などを防ぐための障壁となる側面もあり、現行案の導入について団体としても必ずしも反対一点張りではないように思われた。 一方で小規模農家にとっては廃業につながりかねない制度であり、制度に対する反対は強いことから、制度が完全導入されるかどうかについては予断を許さない状況である。 また、政府が引き続き導入を検討している地域別の飼養頭数制限については、既存の農家が飼養頭数の増加を行うことに制限が付く形での導入に反対をするが、新規参入を制限する形であれば賛成するという立場である。 5)ふん尿問題について 識者の指摘によると今回の畜産業先進化方策の背景として、ふん尿処理問題があるという意見である。 各国の飼養頭数と農用地のデータを比較すると、韓国における農用地に対する牛や豚の飼養頭数の多さが明らかである。 豚1頭あたりの農用地面積は、日本の北海道を除く都府県のデータの半分程度しかなく、ふん尿処理並び処理後のたい肥・液肥の処理について、大きな圧力を受けていることが推察される。日本の4割程度の農用地しか持たない韓国において、日本と変わらない豚の頭数を飼養している現状は、日本のふん尿処理問題よりもさらに切実な問題を抱えているとみられる。 さらに2012年から政府が計画している海洋投棄の全面禁止問題がある(ロンドン条約)。2002年のデータであるが、豚のふん尿処理方法については、たい肥・液肥化79%、浄化14%、海洋投棄7%(2002年の家畜全体で3.9%、聞き取りによれば2010年は2.3%)であると推計されており、ふん尿処理についての早急の対策が求められている。 これらのことから、各飼養農家にふん尿処理設備の設置を義務付ける先進化法案の重要性が推察される。 なお、韓国のふん尿処理については、(財)畜産環境整備機構「韓国の畜産環境の現状と家畜ふん尿管理対策について」畜産環境情報2004年12月号(執筆者:韓国農村振興庁畜産研究所 梁昌範氏、延圭英氏)も参照されたい。 6)今後の導入についての見通し 現在はこの方策の導入に必要となる「畜産法」の改正について、政府提案により国会で審議中である。 聞き取りによれば採決にかけられるのは早くとも今年末、おそらく来年になってからではないかという意見であり、さらに政令の整備などに半年以上かかるのではないかとみられている。 ただし政府は法律改正が可決されなかったとしてもパイロット事業などにより、地域を限定する形での導入を考えているとされ、2012年度から何らかの形での導入が図られるとの見方が強いということであった。 4 2010年までの韓国の畜産需給および酪農関連政策の概況(1)食肉の消費状況韓国においては、2009年の食肉消費量36.8kgのうち、豚肉が19.1kgを占め、最も重要な食肉となっている。消費は豚バラ肉(軟骨付きが好まれる)、カタの部位を中心とする焼き肉需要およびソーセージなどの加工品用途であり、ヒレやロースのような日本で好まれる部位の消費は少ない。このことからバラ肉を確保するための生産を行うと、ヒレ、ロースが余る傾向にあることから、近年現地ではトンカツなどの食べ方が推奨されており、一定の人気が出てきているとのことである。 牛肉は2004年の米国BSE発生に伴う輸入停止の影響から消費が落ち込んだが、国産牛肉の生産増加もあり、その後消費は増加して推移した。消費形態としては焼き肉のほか、日本でもよく知られている「プルコギ」と呼ばれる味付けしたヒレやロースなどのすき焼きに似たものである。日本と同様に脂肪交雑が品質の基準として重視されており、脂肪交雑の多さが焼き肉などでは品質の差異として明確に意識される一方、味付けして食されることも多いことから、一部の料理において、脂肪交雑の多さは味覚面で優劣が出にくい傾向にある。 鶏肉の消費は増加傾向にあるが、日本などと比較すると消費量は少ない。部位別には日本と同様モモ肉の消費が好まれているが、日本と異なる点は骨付き肉での消費が多いことである。夏場(特に日本の土用の丑の日に当たる三伏と呼ばれる日)に「参鶏湯」(サムゲタン)と呼ばれる小型の鶏(1キログラム前半の特別に開発された品種)が丸ごと入ったスープが多く消費される。
(2)韓国の牛肉産業の概要1)牛肉需給 2000年には40万トンあった消費量は、2003年および2005年に米国で発生したBSEの問題から、同国からの輸入が停止されたことから2005年には32万トンに落ち込んだ。その後国内生産量および輸入量は徐々に回復に向かい、2007年以降米国産牛肉の輸入が再開されるなどしたことから、2009年には40万トンの水準に戻った。 生産量については、2005年以降輸入量の落ち込みを補完する形で増加していたが、2008年の米国産牛肉の再開時の国民の不信感の高まりおよび国産牛肉の価格上昇により生産意欲が刺激されたことから、生産量は増加した。
2)飼養頭数 2009年の肉牛飼育農家数は17万5千戸であり、そのうち20頭未満の飼育頭数の農家が8割以上を占めている。 飼養頭数は2003年の148万頭から一貫して増加しており、2009年には264万頭で2003年の78%増、2010年には292万頭と2003年の2倍となっている。と畜頭数は58万頭(2003年)から82万頭(2009年)と1.5倍となった。この理由としては、生産者が高品質牛肉の生産を目指し、飼養期間を延長する傾向があることが考えられる。 地域別では慶尚北道が51万頭と最も飼養頭数が多く、次いで全羅南道の44万頭となる。ほかの道でも(済州道除く)飼養頭数は20万頭以上となっており、全国的に飼養されている。
3)価格 生体価格は変動を繰り返しながらも著しい上昇はなかったものの、2010年には大きく値上がりした。枝肉価格は毎年上昇基調で推移している。一方輸入牛肉も含む小売価格は2007年までは上昇して推移したが、米国産牛肉の輸入が再開された2008年以降、いったん価格が下落するものの、その後2010年には上昇に転じている。
4)牛肉の輸入 政府は2004年、米国産牛肉の輸入を停止した。2002年、2003年には米国産牛肉は18万トンの輸入実績があったものの、2004年から2006年にかけてゼロとなった。その結果全体の輸入量も27万トンから2004年には12万トンに激減した。米国産牛肉は2007年の輸入再開以降、2010年には9万トンを超える輸入が行われたものの、BSE発生前の水準には回復していない。全体の輸入量も2010年で20万トンにとどまっている。 部位別では、対応可能な米国からリブ(焼き肉でカルビ)が多く輸入され、全体の輸入量に占める割合が多くなっている。
(3)韓国の豚肉産業の概要1)豚肉需給 韓国の豚肉の生産量は2002年〜2003年に78万トンのピークを迎えたあと、2006年に68万トンまで落ち込んだ。その後2008年まで低水準で推移したが、2009年に72万トン、2010年に76万トンと増加し、生産が堅調に推移している中で口蹄疫が発生した。 2005年以降、米国およびカナダ、FTAを締結したチリからの輸入量が増加したが、国内生産が2008年以降減少傾向であった。しかしながら、2011年は口蹄疫の影響から国内生産が大幅に減少するため、輸入量は増加するものとみられる。 消費量はおおむね増加傾向にあるが、バラ肉などの人気部位に消費が集中することから、業界はヒレやロースなどの不人気部位の消費拡大を推進することによって、1頭当たりの収益をあげられるようになることを希望している。
2)飼養頭数 養豚農家数は年々減少し、2009年には8千戸となった。そのうち100頭以上の経営体は半分以上を占めるが、50頭未満の経営体も24%を占めている。 全体の飼養頭数は増加傾向で推移し、2009年は959万頭と2000年(821万頭)と比べて17%増となった。と畜頭数は2009年は1392万頭と2000年(1328万頭)と比べて、5%と微増にとどまっている。 地域別では、京畿道が183万頭と最も飼養頭数が多く、次いで忠清南道が179万頭となっている。
3)価格 供給量の8割を国産豚肉が占めており、テーブルミートは国産豚肉主体であることから、農家販売価格、枝肉卸売価格、小売価格については同様の傾向で推移している。
4)豚肉の輸入 主な輸入先国は北米、EUおよびFTAを締結したチリである。輸入は主に冷凍で、チルドは限定的であり、輸入先も北米に限られる。 部位別にみると、韓国国内で3枚肉と呼ばれ、好んで消費されるポークベリーが5割を占めており、価格競争力の関係から冷凍バラ肉の輸入先は欧州およびチリが主体となっている(欧州では脂肪の多いバラ肉が好まれず安い価格で輸出できるため)。 しかし口蹄疫の発生後、家庭のテーブルミートや焼き肉店で多く利用されていた国産豚肉が不足し、2011年に入ってチルドのバラ肉の輸入が増加した。
(4)韓国の鶏肉産業の概要1)鶏肉需給 鶏肉の生産量は2000年26万トンであったものが、それ以降生産量は増加して推移していたが、2003年および2004年は伸び悩んだ。これは、2001年から2003年にかけての輸入増加と生体および鶏肉卸売価格下落による生産意欲減退、および2003年12月から2004年3月にかけ、養鶏場などでH5N1型の高病原性鳥インフルエンザが発生し、計530万羽の鶏やアヒルが処分された影響が考えられる。その後は一転して生産量の増加が続き、2010年には44万トンに達した。一方で輸入量についても2004年以降は低水準の輸入数量であったが、2010年には国内の鳥インフルエンザの発生に対応して10万トン近くの輸入が行われた。 消費量は増減を繰り返しつつも増加傾向にあり、2010年には50万トンを超え、2011年には豚肉からの代替需要からさらに消費が増加すると予想されている。業界は骨なしで食べやすい鶏肉の消費を推進することによって、さらに消費を拡大できるとの考えをもっている。
2)飼養羽数 自給的な飼育を除く肉養鶏飼養農家は2009年で4千戸程度であり、そのほとんどが飼養羽数1万羽以上の大規模の農家である。2003年には高病原性鳥インフルエンザの発生の影響により飼養羽数が減少したが、2004年以降はその影響もなくなり増加傾向で推移している。 地域別にはソウル周辺の京畿道ほか、忠清南道、全羅北道、慶尚北道などで多く飼養されている。 参鶏湯スープ需要が高まる夏には、生体重1kg前半の特別の品種が多く消費されることから、養鶏企業はピーク時期に合わせて、ブロイラーだけでなく参鶏湯用品種の生産を導入し、飼養羽数を大幅に増加させる取り組みを行っている。
3)価格 おおむね農家販売価格、枝肉の価格は同様の傾向で推移している。2007年以降、飼料価格の高騰など生産コストが上昇していること、不況から単価の安い鶏肉へのシフトがみられるなど需要が好調であることから、特に小売価格を中心に上昇して推移している。
4)鶏肉の輸入 輸入先国は米国からの輸入が多いが、近年ブラジルからの輸入も増えている。2010年は高病原性および低病原性鳥インフルエンザの発生や、小売価格の上昇を背景に輸入数量が大きく増加している。冷凍鶏肉の輸入についてはほとんどがモモ肉と手羽の輸入である。多くは骨付き肉とみられる。
(5)韓国の酪農・乳業産業の概要1)生乳需給 生乳生産量は2004年以降おおむね210万トン〜220万トン程度で推移している。しかし、2010年は猛暑の影響から207万トンまで減少した。さらに、2010年12月以降、口蹄疫の発生に伴い1割近くの乳牛をとう汰したため、生乳生産量の大きな伸びは期待できず、脱脂粉乳をはじめとする乳製品向けの生乳の確保が難しいものとみられていることから、2011年の需給はさらにひっ迫傾向にある。 生乳は、150〜160万トンが飲用乳としての消費、30万トン程度が生クリームなどに利用され、残りの20万トン程度が脱脂粉乳などの製造に利用される構造となっている。 日本と同様に夏の需要期に生産を合わせると、冬に生乳が供給過剰となる傾向がある。 輸入は主に脱脂粉乳の輸入が多く、乳業企業(加工乳向け)や製菓製パン企業に利用されている。
2)飼養頭数 農家数は年々減少傾向にあり、10年間で約半減し、2010年は6千戸余りとなっている。経営規模では50〜99頭の飼育頭数規模の農家が5割を占めている。2000年から乳価が大幅に引き上げられたうえ、生産割当制度が緩和されたことにより2003年まで生乳生産量は大幅に増加したが、生産割当数量の再導入などによるその後の制度見直しにより生産量は減少傾向にある。 飼養頭数についても50万頭以上であったものが10年間で43万頭まで減少している。さらに口蹄疫の発生により1割弱の乳牛がとう汰されたため、2011年は飼養頭数の減少が進むものと考えられる。 地域別にはソウル周辺の京畿道4割以上の生乳が生産されているが、口蹄疫の被害が大きかった地域も同地域であった。
3)生体価格 2002年の生乳過剰後、2003年および2004年の乳牛の生体価格は低迷したが、2005年からおおむね回復し、1頭当たり250万ウォン程度で推移していた。2011年からは価格は高騰し、2011年6月には初妊牛価格は1頭で413万ウォンの価格が付いた。
4)乳製品の輸入量 従来から脱脂粉乳については一定量の輸入が行われており、乳業メーカーや製菓メーカーなどで利用されるほか、一部は砂糖などと混合され調製品として再輸出されている。2009年になるとクリームとともに輸入量が上昇したが、さらに2010年にはバターやデイリースプレッドなどの輸入も増加している。 粉乳類は主として豪州が、バターやデイリースプレッド、クリームのような乳脂肪分は豪州のほか、ニュージーランドからも多く輸入される傾向にある。 その他、EU諸国や米国、ウルグライからの輸入が行われている。
5)主な酪農・乳業関連政策 生産割当 韓国では生乳の生産割当および共通の乳価制度が運用されている。 最も一般的な方法は、半月ごとの生産数量を酪農家に割り当て、当該数量を超えた生乳は安い価格で買い上げられるものである。 韓国では1999年に酪農振興会が生産費を保証する乳価算定方式を導入するとともに、生乳の生産割当を廃止して当面の間は導入しないと決めたため生産量が大幅に増加し、2002年には50万トンを超える余剰乳が発生した。このため、同年に生産割当が再導入され、その状態が現在までも継続している。 乳価の決定 韓国では、酪農振興会が生乳生産コスト等を算出し、乳製品の需給事情を勘案しつつ、基本乳価および品質加算額(乳脂肪、体細胞数、細菌数)を、酪農家との交渉によって決定している。また、乳業メーカーが酪農家と直接取引を行う、あるいは地域酪農組合を通じて生産者と取引を行うルートでも当該乳価が横並びで採用されている。 品質加算額は体細胞数+細菌数+乳脂肪などを考慮して算出される。生産割当外の余剰乳を除いてすべて全国一律で価格設定されており、用途別価格は採用されていない。 酪農振興会の規定上、前回の乳価締結時から生産費が5%以上変動すれば改定交渉を行うことができるとなっているが、実際の運用は弾力的に行われている模様である。近年では乳価交渉は3年に1度行われており、その間の乳価は固定である。 乳価は基本乳価と品質加算額の合計で決まるため、実際の乳価は基本乳価から2割近く上乗せした価格で取引されることが多い。 ①基本乳価(2011年8月16日から適用) ②体細胞による品質加算(ペナルティーもあり) ③細菌数による品質加算(ペナルティーもあり)
④乳脂肪
⑤タンパク質含有量
(注1)この4章は、畜産の情報2004年5月号「韓国の豚肉、鶏肉および酪農産業の概況」の続きとなるものであり、ここに書いてある以前の韓国の畜産業の状況については、同原稿を参照いただきたい。
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