【要約】
中国の牛肉需給は、生産コストの上昇などにより、国内生産が横ばいないし縮小傾向にある一方、経済成長に伴う国民所得の向上を背景に、消費は都市部を中心に増加しており、需要と供給のギャップが年々拡大している。牛肉の輸入量が増加していく一方で、今後、国内の牛肉生産構造も大きく変化する可能性がある。
はじめに
2010年中国の国内総生産(GDP)は日本を超え、米国に次ぐ世界第2位に躍進した。この経済成長の恩恵を受けて、近年、牛肉の消費や輸入も増大しており、その様子は「爆食」などと
揶揄されるようになった。しかし一方では、政情などの状況によって、急に輸入を停止させたり、買付を増大させたりすることがあるため、しばしば国際需給のかく乱要因とみなされている。
中でも、2013年に牛肉輸入を急増させ、前年比4.8倍の約30万トンに達したという事実は、わが国の食肉関係者を中心に、このまま中国の輸入量が増大すれば、国際需給がひっ迫するとの危機感を募らせることとなった。2014年は、輸入量が2013年並みに落ち着き、需給が急激にひっ迫することはなかったが、主産国の米国や豪州などにおいて、今後の減産予測が報じられていることから、予断を許さない状況であることに変わりはない。
今や中国は、その動向一つで国際需給に影響を与えうる存在となっており、同国の牛肉生産・消費動向を把握することは、今後の国際需給を見通す上で重要である。本稿では、直近の中国の牛肉需給の変化を整理するとともに、今後の見通しについて報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1元=20円(2015年5月末日TTS相場:20.25円)を使用した。
1 肉用牛の主産地
中国で本格的な肉用牛生産が開始されたのは、1990年代以降と言われており、牛肉産業の歴史は比較的浅い。これ以前は、市場に出回る大部分の牛肉は淘汰された役牛であり、牛の飼養の主目的は産肉用ではなく、農耕用の役牛として飼養頭数を増やすことにあった。
産業としての肉用牛生産が確立されて以降、中国農業部(日本の農林水産省に相当、以下、「農業部」という。)は産地を「東北」、「中原」、「西北」、「南部」の4地区に分類している(図1)。
吉林、遼寧などの東北地区は、トウモロコシ生産などが盛んな「中国の食糧庫」とも呼ばれ、飼料資源も豊富なことから、畜産分野でも潜在性の高い地区と言われている。次に、河南を擁する中原地区は、気候に恵まれ、牧草資源が豊富なことに加え、良質な肉専用種も多いことから、従来から主産地として位置づけられてきた。内蒙古や青海などの西北地区は、伝統的な放牧による牧畜が盛んな地域であり、大都市向けに畜産物を供給する役割を担ってきた。雲南や四川などの南部地区は、飼養頭数は多いが(図2)、飼養される牛の体躯が小さく、飼料資源も比較的乏しいため、産肉性は低いとされる。
また、肉用牛の給与飼料については、政府の指導などにより、飼養地域で採れる農産物や農場副産物の給与が基本となっている。東北地区ではトウモロコシ主体、中原地区では粗飼料としてトウモロコシ茎や乾草、濃厚飼料としてトウモロコシや小麦、大豆かすなど、南部地区では稲の茎などが一般的に多給される。なお、配合飼料の利用は、商業的な大規模経営に限定される。
農業部によると、中原地区と東北地区だけで全国のと畜頭数の5割を占めるとされる。このため、同部は、生産性や潜在性の高さに着目して、両地区を肉用牛振興の重点地区に指定している。
図1 肉用牛の生産地区の分類 |
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資料:ALIC作成 |
図2 省・自治区別肉用牛飼養割合(2013年) |
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資料:中国農業部「中国畜牧獣医年鑑」 |
2 肉用牛生産の動向
(1)肉用牛の飼養動向
中国では乳廃牛や水牛も低価格帯の牛肉として流通・販売されており、重要な牛肉資源となっている。国家統計局によると、2013年の牛飼養頭数は、肉用牛が6839万頭(前年比2.1%増)、乳用牛が1442万頭(同3.4%減)、水牛が2104万頭(同2.2%減)となった(図3)。近年は、肉用牛や乳用牛がほぼ横ばいで、水牛は減少傾向となっている。なお、牛飼養頭数全体に占める肉用牛の割合は、2008年の49.7%から2013年は65.9%へ拡大しており、牛肉資源は肉用牛にシフトしていることが分かる。
図3 牛飼養頭数の推移 |
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資料:中国国家統計局よりALIC作成
注:飼養頭数は年末時点。 |
中国農業科学院によると、肉用牛の品種割合は黄牛などの在来種が2割で、在来種と外国種の交雑種が8割程度とされ、交雑種のうちシンメンタールとの交雑が5割を占めている。シンメンタールは、粗食に耐え、乳肉兼用として泌乳量や産肉量も多いことから、外国種の中で最も交配を推奨され、全国に普及したとされる。なお、一般的なシンメンタールの交雑種は、飼養期間が20〜24カ月齢、出荷体重は500〜600キログラムとのことである。
同院は、黄牛と外国種の交雑が進んだことが、枝肉重量の増加や肥育期間の短縮などに貢献したとしている。しかし、統計値上の2013年の1頭当たり枝肉重量は140キログラム程度と、10年間で5キログラムしか増加しておらず、国全体としては肉用牛の改良に遅れが見られる。
(2)肉用牛飼養戸数の動向
農業部によると、2013年の全国の肉用牛飼養戸数は1233万7300戸(前年比2.5%減)と、減少傾向にある(図4)。また、頭数規模別に見ると、年間出荷頭数10頭未満の小規模経営が全体の95%以上を占めており、この層の減少幅が最も大きい。
図4 肉用牛の年間出荷規模別飼養戸数の推移 |
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資料:農業部「中国畜牧獣医年鑑」 |
この理由としては、近年、中国各地でもと牛の供給が減少し、もと畜費をはじめ、飼料費や労働費など生産費が急騰していることにある(表1)。中国の肉用牛経営は、日本のように繁殖、肥育と明確に分かれておらず、経営形態はさまざまであるが、大規模になるほど一貫経営が行われている。一貫経営においては、もと畜費の上昇による影響は少ないが、小規模の肥育経営はもと畜費が生産費の大部分を占めるため、大きな打撃を受けることとなる。一方、小規模が多くを占める繁殖経営においては、長い飼養期間に伴う資金繰りの悪化などから、子牛価格が高いこの機会に離農し、より短期で高い収入を得るため都市部に出稼ぎへ向かうなどの動きが加速している。総体的には、生産の根幹を担っている大多数の小規模経営は、生産性向上への取り組みに遅れが見られるとともに、生産費の上昇によって淘汰されつつある。
表1 肉用牛1頭当たり生産費 |
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資料:国家発展改革委員会「全国農産品成本収益資料」
注 1:飼養頭数50頭以下の農家が対象。
2:200kgのもと牛を導入して、200日肥育した際の生産費。 |
一方、出荷頭数100頭以上の大規模経営は、2013年で3万1700戸と2007年比で倍増している。しかしながら、経営体数に占める割合は、わずか0.3%であり、酪農や養豚などと比べれば、大規模化のスピードは遅く、現状では生産構造に大きな変化が生じているとは言い難い。
なお、乳業では、豊富な資金力を持つ国内外の乳業メーカーなどが生乳生産部門に参入し、酪農先進国並みの飼養管理により、大規模化を進展する事例が多く見られるが、肉用牛生産では外資が国内に参入している事例はあまり見られない。
(3)牛肉の生産動向
国家統計局によると、2013年の牛肉生産量は673万2000トン(前年比1.6%増)と、2011年以降は増加傾向にある(図5)。増加の要因は、離農や干ばつなどによって牛の出荷が進んだことにあり、2013年の出荷頭数は4828万頭(同1.4%増)となっている。と畜率(注1)も年々上昇傾向にあり、2013年は46.5%となった(図6)。これまで、中国の牛出荷頭数は増加傾向であったが、前述のとおり小規模経営を中心とした離農が進んでいるため、現在は牛の再導入が進んでおらず、今後は飼養頭数ひいては牛肉生産量の減少が懸念される。
(注1)出荷頭数÷飼養頭数、政府はと畜率を高めることを政策目標(2020年までに55%)として掲げている。
図5 牛出荷頭数および牛肉生産量の推移 |
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資料:国家統計局
注:生産量は枝肉重量ベース。 |
図6 牛のと畜率の推移 |
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資料:中国国家統計局に基づきALIC作成 |
統計値上は、肉用牛の飼養頭数や牛肉生産量は増加傾向にある一方で、現地関係者からの聞き取りでは、年々、と畜頭数や牛肉生産量は減少しており、国内の牛肉は不足しているとの意見が多い。特に小規模経営の離農は各地で深刻化しており、肉用牛頭数は統計値よりも1割以上減少していると指摘する声もあった。また、農業の近代化に伴い役牛も減少しており、地域によっては淘汰される牛も底をついているとの話も聞かれた。
実際、国産牛の不足によって、中小と畜場を中心に操業停止や稼働率低下という事態が発生している。現地報道などによると、2013年のと畜場全体の稼働率は約3割まで低下したとも言われている。なお、中国には、海外から最新の設備を導入した年間処理頭数5万〜10万頭規模のと畜場が60カ所程度、1万〜5万頭規模が150カ所程度あるとされる。現状では、1万頭規模以下のと畜場が大多数であるが、最近の国産牛不足によって、小規模と畜場が淘汰され、と畜業界の再編が促されつつある。
(4)肉用牛振興策の状況
国家発展改革委員会は2013年9月、「全国牛羊肉生産発展計画(2013−2020)」を公表した。本計画は、財政や技術面での支援を通じて肉用牛飼養頭数を増やし、2020年の牛肉生産量786万トン(2013年比16.8%増)を達成するための指針である。計画では、大規模化の推進による収益性と生産性の向上が第一に謳われており、個々の生産者に対する補助としては、農場新設の際の飼養頭数規模に応じて、地方政府が補助金を支給するというものがある。これは、頭数規模が大きいほど、補助金単価が上がる仕組みとなっており、最大(201頭以上の場合)では、牛導入1頭当たり500元(1万円)が支給される。この他には、人工授精に対する補助もあり、凍結精液1本につき5元(100円)程度の補助金が支給される。
これら以外にも、品種改良などに対する研究開発への支援や、コールドチェーンなどインフラ整備に対する支援など、産業発展のためにさまざまなメニューが用意されている。しかし、予算総額は8カ年で17億元(340億円)と、養豚や酪農に対する支援と比較して少なく、河南省など産業規模の大きな地域で配分額が大きいなど地域間で温度差もあり、施策の効果を疑問視する声もある。
一方、中国畜牧業協会は、国内で大規模化が進まない理由として、ふん尿処理への対応を挙げている。これは、国務院が2014年1月から施行した「畜禽規模養殖汚染防止条例」によって、ふん尿処理の無害化が義務付けられ、違反した場合は、罰金や農場の撤去などが命じられる。同協会は国内産業の発展には、政府の支援が欠かせないとし、さらなる取り組みの必要性を訴えている。
3 牛肉の流通・消費動向
(1)牛肉の流通動向
牛肉の流通形態を見ると、温と体での取引が依然として主流である(図7)。と畜直後の温と体の牛肉は、伝統市場(ウェットマーケット)などにおいて量り売りで販売されるが、スーパーなどで販売される国産の冷蔵・冷凍牛肉に比べ、新鮮かつ安価であるという理由から、現代においても消費者から根強く支持されている販売形態である(写真2、3)。
図7 牛肉の流通形態別構成割合(2013年) |
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資料:Beijing Orient Agribusiness Consultant Co.,Ltd.「China's Beef
Cattle Industry Development Report」 |
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写真2 量り売りで販売される温と体の牛羊肉(上海市内) |
冷凍牛肉の主なユーザーは、外食産業や加工業である。一方、冷蔵牛肉の流通は、専用のコールドチェーンが整備された都市部に限定されるため、この割合は4%とまだ低い。しかし、都市部では近代的なと畜場の建設が進んでおり、これに伴い流通面の改善も期待されるため、今後、冷蔵の割合の増加が見込まれる。
(2)牛肉の消費動向
国家統計局や農業部によると、食肉の1人当たり年間消費量は、毎年2%程度増加しており、2013年は62.4キログラム(枝肉重量ベース、豚肉40.2キログラム、家禽肉14.3キログラム、牛肉および羊肉7.9キログラム)となった(注2)。食肉のうち、豚肉が最も多く消費されるが、近年、家禽肉や牛肉の消費増加によって、豚肉の消費割合は減少しつつある。
従来、中国では牛肉消費の大半はイスラム系住民によるものであり、消費量はわずかであった。現地での聞き取りによると、最近、牛肉消費が増加している主な要因としては、国民所得の向上と消費者の健康志向が挙げられた。前者について、都市部および農村部ともに住民の可処分所得は伸びており(図8)、これにより豚肉から牛肉や羊肉など高価格帯の食肉消費が進展したとされる。
一方、後者については、牛肉は、豚肉に比べコレステロールが低く、高タンパクで健康に良いと消費者に認識され、徐々に嗜好されるようになったとされる。
(注2)中国肉類協会によると、牛肉の1人当たり消費量は5.6キログラムとされる。
図8 1人当たり可処分所得の推移 |
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資料:国家統計局「中国統計年鑑」 |
都市部、農村部別の牛肉の消費量を見ると、都市部では2001年から2013年の増加は、0.7キログラムと約4割の増加にとどまっているが、農村部では1.0キログラムと約2倍になっている(図9)。ただし、都市部の数値は家計消費のみであり、外食・中食消費を含めると、消費はこれより伸びていると考えられる。特に近年、都市部では牛肉を扱う外食店が急速に増加しており、都市住民のみならず、出稼ぎ労働者による外食消費も増加しているとされる。
図9 牛肉の1人当たり消費量の推移 |
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資料:国家統計局「中国統計年鑑」
注:都市部における消費量は、家庭における購入調査に基づいて
おり、業務用・加工用および外食による消費量は含まれない。 |
従来、中国では、国産の硬い精肉を使うと調理に時間を要することから、ビーフジャーキーなどの加工品の利用が多いという特徴があった。また、家庭で調理される牛肉料理は、煮込み料理や炒め料理が主体で、メニューの種類は限られていた。しかし、近年の牛肉産業の発展や牛肉輸入の増加を受けて、良質な牛肉が出回るようになったため、消費スタイルも変化しつつある。
2013年の牛肉消費に占める割合を見ると、家計消費、加工仕向け、その他(外食等)の割合は、それぞれ38%、10%、52%となった(図10)。近年、外食消費の伸びが著しく、日本の消費構成割合に近づいている。外食でよく見られる代表的な牛肉料理は、火鍋(囲み記事参照)や牛肉麺(写真4)、牛丼、焼き肉、ハンバーガーなどである。特に都市部では食の洋風、和風化に伴いハンバーガーや牛丼の需要も高まっている(写真5)。
図10 牛肉の消費構成割合(2013年) |
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資料:Beijing Orient Agribusiness Consultant Co.,Ltd.「China's Beef Cattle Industry
Development Report」、農林水産省 |
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写真4 伝統的な外食での牛肉料理、牛肉麺(北京市内) |
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写真5 牛丼チェーンの「和合谷」の中国風牛丼、
サラダとのセットで25元程度(北京市内) |
(3)牛肉価格の動向
国家統計局によると、牛肉(モモ肉)の小売価格は、2015年4月に1キログラム当たり67元(1340円、前年同月比1.2%高)となり、上昇傾向にある(図11)。この要因として、同局は国内供給が需要に追い付かないためとしている。さらに、牛肉の生産サイクルも長いため、短期的には需給バランスの改善は期待できないとコメントしている。また、2014年頃から価格がほぼ横ばいで推移していることに関して、2014年夏季の干ばつによる出荷頭数の増加や2013年からの輸入量の増加が価格高騰を抑制したとの見方を示している。
現地での聞き取りによると、2015年4月時点の卸売価格は、国産牛肉が同50元(1000円)程度に対して、輸入牛肉は同30〜40元(600〜800円)程度とされ、国産牛肉の価格は輸入牛肉を上回っている。
図11 牛肉(モモ肉)の小売価格の推移 |
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資料:国家統計局よりALIC作成
注:50都市における平均価格。 |
牛肉の外食消費を牽引する中国の火鍋
中国の食文化において代表的な鍋料理である火鍋は、その種類が豊富であり、使用される食材や味付けもさまざまである。一般的な火鍋として知られる蒙古火鍋や四川・重慶火鍋は、太極の「陰陽」に見立てて仕切った金属製の丸鍋の中に、白湯と呼ばれる白濁のスープと、唐辛子や山椒など香辛料を大量に入れた辛い味付けの紅湯の麻辣スープの2種類を別々に入れて煮立て、食材を好みのスープに入れて食べる二色鍋形式のものが多い(写真6)。また、食材には牛肉や羊肉のバラ肉やカタ肉などの部位を薄切りにしたものが使われる。
中国烹饪協会(中国フードサービス協会)によると、火鍋はほぼ通年で消費されるが、夏は冬に比べ4割程度消費が落ちるとのことである。また、中国の消費者はこれまでに発生した多くの食品に関する事件・事故から、外食で使用される食材の安全性や栄養面についても関心を強めているとしている。このため、使われる食材を確認することが出来、かつ新鮮なものを取り扱う火鍋に人気が集まっているという。さらに、消費者の懐具合に合わせて、食材の種類や量も選択可能なため、幅広い所得階層、年齢層から支持を得ている。
専門店側も、家庭での再現が困難な独自のスープやタレを開発しており、料理の経済性の高さとも相まって、外食における消費が増加しているとのことである。同協会によると、専門店による売り上げは外食産業の3割を占め、近年の火鍋ブームを追い風に、中国各地で出店が相次いでいる。
一方、こうした火鍋消費の増加によって、専門店においては国産牛肉・羊肉だけでは需要に対応できなくなっており、豪州産、NZ産など輸入品の使用割合が徐々に増加している。
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写真7 カウンター式で一人鍋を楽しむことも
できる台湾式火鍋の呷哺呷哺(xiabu
xiabu/しゃぶしゃぶ)の店舗内(北京市内) |
4 牛肉の輸入動向
(1)牛肉の輸入動向
経済成長に伴う都市部を中心とする外食消費の増加を背景に、牛肉輸入量は、2012年から急激な伸びを示し、2013年は前年比4.8倍となる29万4224トンとなったが、2014年は、同1.3%増の29万7949トンと前年並みに落ち着いた(図12)。一時期は、日本との輸入牛肉の買付け競争の激化も懸念されたが、2014年を振り返ってみると、消費面は中国経済の失速や三公経費節減(注3)の影響もあってか、急激な増加とはならなかった。
図12 牛肉輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
中国肉類協会などは、2014年の輸入量が前年並みとなったのは、前年輸入分が過剰で、在庫過多に陥ったことや、豪州産冷蔵牛肉の禁輸措置(注4)の影響があるとしており、積み増された在庫が消化されれば、今後の輸入量は増加するとみている。
現在、最大の輸入先は、豪州で、輸入量全体の約5割を占め、これにウルグアイ、ニュージーランド(NZ)、カナダと続く。現時点で対中輸出が可能なのは、豪州、NZ、カナダ、ウルグアイ、アルゼンチン、コスタリカ、メキシコ、ブラジル、アイルランドの9カ国である。最近、中国は、国内の需要を満たすため、輸入先の多元化を図っており、2014年に入ってメキシコやブラジルとの間で輸入条件などに関する交渉を進め、2015年2月にアイルランドからの輸入再開を決定している。さらに、2003年以降、牛海綿状脳症(BSE)の関係で輸入停止措置を取っている米国産についても、近いうちに輸入が再開されるとの見通しが立っている。
(注3)中国共産党が励行する公務海外出張費、公用車経費、公務接待費の3種類の経費の節減。
(注4)中国政府が2013年8月に食品安全を理由に、豪州の食肉処理加工施設の輸出認定を取り消し、2014年5月には
衛生条件を変更し、成長ホルモン(HGP)の使用を禁じている。2014年7月からは一部施設からの輸出が再開され
ている。
中国における輸入牛肉の約9割が冷凍であり、残り1割が冷蔵となっている。冷凍牛肉の形態別輸入量の内訳を見ると、2013年以降、「枝肉」や「骨付き肉」が大幅に増加している(表2)。特に2014年は、「骨付き肉」の輸入量が9万6277トンと、牛肉輸入量全体の3分の1を占めている。関係者からの聞き取りでは、「骨付き肉」の中でもロインやバラ肉など需要のある部位が含まれる前四分体(フォアクォータ)での輸入需要が多かったとのことである。
「枝肉」や「骨付き肉」といった形態での輸入が増加している理由としては、国内のと畜頭数減少による加工場の稼働率低下が挙げられる。中国では年々、人件費が上昇しているとはいえ、豪州やNZなどの輸入先国に比べれば、加工賃はまだ安価である。このため、骨付き状態で輸入し、需要に合わせて国内で分割する方が、加工場の稼働率向上とともに経費も低く抑えられる(写真8)。なお、冷凍牛肉の関税率は、「枝肉」25%、「骨付き肉」12%と、骨付き肉の方が低くなっており、「骨付き肉」の輸入量は「枝肉」よりも多くなっている。
表2 冷凍牛肉の輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード0202(冷凍牛肉)、020210(冷凍牛枝肉)、020220(冷凍骨付き牛肉) |
香港の牛肉輸入動向
香港は1997年に英国から返還されたが、中国の統計では未だ別の扱いになっており、貿易統計では本土とは別に推計されている。このため、中国の輸入動向を把握するためには、香港の輸入動向も見ていく必要がある。
香港の2013年の輸入量は32万9228トン(前年比89.4%増)、2014年は40万9000トン(同24.2%増)となった(図)。香港の輸入量も、中国本土と同様2012年から急増しており、2014年は中国本土の輸入量が前年並みとなるも、香港は堅調に増加している。
2014年の牛肉輸入量が全て香港内で消費されたとすれば、香港では1人当たり60キログラム程度を消費したことになる。この数値は日本の消費量(6.0キログラム)の10倍に相当する多大なものであることを考慮すれば、輸入牛肉の相当量が香港を経由して中国本土に入っていると推察される。中国肉類協会は、2014年は、こうした香港や第3国経由による輸入が増加したため、中国本土の輸入量増加が抑制されたとの見方も示している。しかし、現地報道などによると、最近では中国当局が本土境での監視を強化しているとの話もあり、今後、香港の輸入量が減少する可能性もある。
主な輸入先は、ブラジルと米国であり、この2カ国で輸入量全体の約9割を占める。オランダの金融機関ラボバンクは、今般、中国がブラジルからの輸入再開を決定したことで、ブラジルの香港向け輸出量は今後減少するとの見方を示した。また、現地報道などによると、ブラジル産牛肉は、他の輸入牛肉よりも低価格なことから、解禁されれば内陸部の中間所得者層を中心に需要が見込まれる。
図 香港の牛肉輸入量の推移 |
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資料:「Global Trade Atlas」
注:HSコード0201(冷蔵牛肉)、0202(冷凍牛肉) |
(2)輸入牛肉の用途
輸入牛肉については、冷蔵と冷凍で仕向け先が若干異なっている。2013年の冷蔵牛肉の輸入量は1万トン程度であるが、高級牛肉が多いため、仕向け先の大部分が、高級ホテルやレストランである(図13)。特に豪州やNZ、カナダ産などの牛肉は、北京、上海、広東など都市部において、高級中華料理やステーキ、焼き肉などに利用される。
図13 輸入冷蔵牛肉の仕向け先(2013年) |
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資料:Beijing Orient Agribusiness Consultant Co.,Ltd.「China's Beef
Cattle Industry Development Report」 |
なお、流通に関しては、7割が販売業者などを介し、3割は直接仕向け先に卸される。また、売れ残った輸入冷蔵牛肉は国内で冷凍処理が施され、冷凍牛肉として流通することもある。
一方、輸入冷凍牛肉でも主なユーザーはホテルやレストランなど外食産業である(図14)。ただし、輸入量が多いため仕向け先は多様化し、スーパーなど小売の割合も多い。豪州統計局(ABS)によると、中国向け豪州産冷凍牛肉の内訳として、キューブロールやストリップロインなどのロイン系が最も多く、これにブリスケットなどのバラ肉が次ぐとしている。外食に次いで多いのが加工業者向けで、主にビーフジャーキーなど伝統的な牛肉製品に加工される。
また、冷凍の場合は、8割が販売業者を介し、残り2割程度が卸売市場をはじめ直接仕向け先に流通する。
図14 輸入冷凍牛肉の仕向け先(2013年) |
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資料:Beijing Orient Agribusiness Consultant Co.,Ltd.「China's Beef
Cattle Industry Development Report」 |
(3)生体牛の輸入動向
生体牛輸入頭数は、近年、概ね増加傾向にあり、豪州、NZ、ウルグアイから輸入している(表3)。なお、2014年の輸入頭数は未公表であるが、輸入額が2013年比で2倍以上増えている(2013年:2億6642万米ドル→2014年:6億2263万米ドル)ことから、輸入頭数も倍増していると推察される。輸入先のうち豪州については、これまで北部に常在するブルータングウイルス(注5)を理由に、南部からのみ生体牛を輸入してきた。しかし、生産が盛んな北部からも輸入できるようウイルスが弱体化する期間のみ輸入を認めるなど、徐々に条件が緩和されつつある。
生体牛は骨や皮などの副産物の販売により、と畜業者の収益が増えるため、収益性の面からも輸入が志向されつつある。ただし、中国の規則では、家畜疾病のまん延を防ぐため、生体牛を輸入した港(空港含む)から50キロメートルを超える輸送が禁じられている。このため、生体牛の輸入は、港付近に農場やと畜場を確保している業者に限られている。
(注5)反すう動物に感染するウイルス性疾患。特に羊への影響が大きいため、中国側は輸入を拒んできた経緯がある。
表3 生体牛輸入頭数の推移 |
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資料:中国海関総署「中国海関統計」
注:乳牛含む。 |
5 今後の見通し
農業部がこのほど公表した「中国農業展望報告(2015ー2024)」では、経済の発展や人口の増加に伴い、牛肉消費量は増加し、2024年には877万トン(2014年比22.3%増)になると予測している。生産量も一定程度の増加が見込まれるものの、消費量に見合った増加は見込まれず、徐々に需給ギャップが広がるため、2024年の輸入量は50万トン(同19.9%増)まで増加すると予測している。また、報告の中で2020年以降については、食肉消費がさらに多様化するため、消費の伸びは緩やかになるとしている。一方、ラボバンクも2018年までに毎年15〜20%の輸入増加を予測し、増加の幅は異なるものの国内外のさまざまな機関が今後の輸入増を見込んでいる。
また、輸入について、豪州との自由貿易協定(FTA)(注6)の年内発効が見込まれている。関税削減により、豪州産牛肉や生体牛をさらに安価で買い付けられるようになれば、輸入量は増加するだろう。また、輸入牛肉の価格が国産を下回る状況下では、国内メーカーが、国内で非効率な生産を行うよりも、安価で良質な牛肉を求めて、海外で農場を買収したり、外資系企業と提携して、海外で牛肉を生産する動きを活発化させると見られる。
一方、中国政府は規模の大きな生産者に厚く支援を行い、生産基盤の強化に努めているが、今後はさらなる海外との厳しい競争にさらされ、競争力を持たない中小の生産者の淘汰が加速し、生産構造も大きく変化していく可能性がある。
(注6)牛肉は、現行関税率12〜25%が9年以内に0%、生体牛は現行5%が4年以内に0%まで削減される予定。
おわりに
中国は、経済発展に伴い牛肉消費が急激に増加しているが、牛肉消費形態は可処分所得階層により明確に異なっており、一くくりに捉えることはできない。都市部の富裕層は、高級スーパーや外食で輸入牛肉を食するのに対し、中間所得者層は伝統市場などで国産牛肉を購入し、低所得者層は乳廃牛から作られた加工品を消費するといった具合である。また、富裕層が求めるものは価格よりも品質であり、低所得者層が求めるものは手頃な価格であるが、両者の根底にあるものは偽装のない本物の牛肉であるといった信頼である。
実際に我々が訪問した北京や上海での高級デパートでは、1キログラム当たり2万円を超えるような豪州産牛肉が次々と買われており、信頼というブランドには金の糸目をつけないという富裕層が多く見られた。
中国では、都市化が進展し、出稼ぎで農村から都市部に出てきた労働者が消費者となるなど、消費の伸びにより、需給のギャップがさらに拡大している。国内生産の大幅な増加が望めない中、中国政府は米国からの牛肉輸入再開も検討しており、今後、輸入牛肉の調達は日本とのさらなる競合が予想される。
参考文献
(1)中国国家統計局「中国統計年鑑」各号
(2)中国農業部「中国農業年鑑」各号
(3)中国農業部「中国畜牧業 年鑑」各号
(4)国家発展改革委員会「全国農産品成本収益資料」各号
(5)Beijing Orient Agribusiness Consultant Co.,Ltd.(2014)「China's Beef Cattle Industry Development Report」
(6)畜産振興事業団叢書シリーズ(1991)「中国肉用牛産業の現状と展望−中国の肉用牛産業の動向に関する
基礎調査報告書」
(7)農畜産業振興機構 畜産の情報2009年11月号「中国の食肉消費をめぐる動向〜第5回世界豚肉会議での
報告と小売・外食事例〜」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/nov/spe-02.htm
(8)農畜産業振興機構 海外情報「国家発展改革委員会、全国牛肉・羊肉生産発展計画(2013−2020年)を発表(中国)」
http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000911.html
(9)農林水産省(2008)「平成19年度農林水産物貿易円滑化推進事業のうち品目別市場実態調査」中国−牛肉
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/h19_zigyou/enkatu/market/china/gyuniku.html
(10)中国財経HP「中国農業展望報告(2015−2020年)」
http://finance.china.com.cn/roll/20150421/3070165.shtml
(11)ミート・ジャーナル2014年12月号「牛肉と豚肉の世界的需給 その1-牛肉」
(12)USDA/FAS(2015)「China, Peoples Republic of, Livestock and Products Semi-Annual Report 2015」
http://gain.fas.usda.gov/Recent%20GAIN%20Publications/Livestock%20and%20Products%20Semi- annual_Beijing_China%20-%20Peoples%20Republic%20of_3-9-2015.pdf
(13)USDA/FAS(2015)「Livestock and Poultry: World Markets and Trade」
http://apps.fas.usda.gov/psdonline/circulars/livestock_poultry.pdf
(14)MLA(2013)「Red Meat Market Report China」
http://www.mla.com.au/files/c27ad16b-623b-4a7b-a050-a20300c29df9/RMMR_China_July_2013.pdf
(15)Rabobank(2014)「Rabobank Report: China beefs up imports as domestic cattle production continues to struggle」
https://www.rabobank.com/en/press/search/2014/20140425_Rabobank-Report-China-beefs-up-imports-as-
domestic-cattle-production-continues-to-struggle.html
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