繁殖メス牛の減少により牛肉生産は減少の見込み(アルゼンチン)
繁殖メス牛がかなり減少
アルゼンチン国家動植物衛生機構(SENASA)が発表する口蹄疫ワクチン接種頭数結果によれば、2008年度下半期の繁殖メス牛の頭数は、前年同期に比べかなりの程度減少し、2,214万頭(前年同期比6.3%減)となっている。
過去2年ほど繁殖メス牛は、約2,400万頭飼養されてきたにもかかわらず、2008年度下半期に減少した理由としては、大豆作付の拡大による牧草地の減少の他にも、牛肉輸出の低迷(
http://lin.alic.go.jp/alic/week/2008/ar/ar20081120.htm)や、農業資材や燃料などの価格上昇による牧草生産費を中心とした生産コストの上昇などがあるとみられる。
降雨不足から受胎率も減少
一方、スプリングフラッシュ(牧草が急速に成長する10月〜1月の時期)の降雨が不足したため、1月までは牧草地は一面黄色だったことから、繁殖メス牛のボディーコンディション(太り具合から見た栄養状態)に影響し、例年に比べてやせぎみの繁殖メス牛が多くなり、受胎率が低下している。(
http://lin.alic.go.jp/alic/week/2009/ar/ar20090303.htm)
このように繁殖メス牛が減少していることに加え、受胎率も低下していることから、牛肉生産量は今後減少傾向が続く恐れがある。
輸出量はしばらく減少
アルゼンチンの牛肉生産量は、これまで約310万トン(枝肉ベース)で推移してきたことから、繁殖メス牛の減少率(▲6.3%)を乗じると、牛肉生産量は290万トンに減少すると試算される。今後の牛肉生産の見通しについて、当地で畜産専門情報誌を発刊するイリアルテ氏に質問したところ、今後の見方として2つのシナリオが示された。
(1) 牛肉生産増加シナリオ
ヒルトン枠牛肉(EU向け一定基準を満たす骨なし高級生鮮牛肉)の輸出が円滑に行われるなど輸出規制が緩和されることにより、輸出価格が上昇し、子牛を増産する意欲が高まる。また、気候も平年並みに回復し、子牛出生率も高まる。しかしながら、めす子牛は経営内で保留されることなどから、牛肉輸出量は数年間減少した後、増加。
(2) 牛肉生産減少シナリオ
牛肉生産量の減少により、国内価格が上昇し、輸出規制が強まる。このため、輸出価格が低下し、子牛を生産する意欲が弱まり、 繁殖経営の離脱により、繁殖メス牛が売却されるため、国内供給を賄う生産量は維持されるものの、いずれ牛肉を輸出できない水準(250万トン以下)まで減少。
ほかにもさまざまな要因がある中で、単純化したシナリオではあるが、食肉パッカーにとって利幅が大きいヒルトン枠牛肉ですら、限度数量上限まで輸出できていない現状を踏まえると、減少シナリオについても軽視することはできない。
【松本 隆志 平成21年5月6日発】
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