温室効果ガスの排出量取引制度導入に向けた法案を巡る動き(豪州)
排出量取引制度を規定した法案が12月2日、上院で再度否決
気候変動対策を積極的に推し進める現政権は、温室効果ガス削減対策の柱として2011年からの排出量取引制度導入を目指している(詳細は、畜産の情報2009年11月号:海外駐在員レポート「
豪州の気候変動対策と畜産分野での温室効果ガス排出削減の取り組み」参照)。2009年6月には、排出量取引制度を規定した炭素汚染削減計画(CPRS)法案が下院を通過したが、同年8月、上院の審議において排出量取引制度導入を急ぐべきではないなどとする野党側の反対により同法案は否決された。同法案は今年10月再び議会に提出されたが、12月2日、与党が議席数で過半数を下回る上院で同法案は再度否決された。
ラッド首相率いる現政権は、温室効果ガス排出量を2020年までに2000年比で5〜25%削減する目標を掲げており、同法案の成立の成果を持って今月7日からコペンハーゲンで開催される国連気候変動枠組条約15回締約国会議(COP15)の交渉に臨む構えでいた。
農業分野を排出量取引制度の対象から除外する方針
2007年における豪州の温室効果ガス排出量(二酸化炭素吸収分を含まない。)を見ると、同国は化石燃料である石炭への依存度が高いことから、エネルギー分野(発電、運輸など)が最大で全体の約4分の3を占めるが、次いで多い農業分野が全体の16%となっている。農業分野の内訳を見ると、畜産分野からの排出量は、家畜のメタンなどからの発生が多いことから、約7割を占めている。農業分野について現政権は、当初、2015年から排出量取引制度の対象に含めるかどうかを2013年までに決定するとしていた。しかし、今回の上院での法案採決に先立ち、現政権が11月24日に公表した与野党間で合意した法案の修正案では、石炭業界への支援策のほか、農業分野を排出量取引制度の対象から除外するとともに、農業分野に温室効果ガス削減の取り組みを通じて排出枠を獲得できるオフセットの考えを取り入れている。農業分野を排出量取引制度の対象とすることについて、豪州の主な農業団体はかねてから、生産者にとって新たなコスト負担となるとして反対の立場をとっていたことから、この政府の方針を一様に歓迎している。
法案は来年2月に、再度、議会に上程される見込み
同法案は、前述の通り、与野党間で修正案が合意されたものの、最大野党の自由党内でその賛否を巡り議論が二分された。12月1日には自由党党首として、政府の排出量取引制度導入に反対の立場をとるアボット氏が選出され、同党は、翌2日の法案採決に際して反対票を投じる方針に転じた。
こうした中、政府は、議会の夏休み明けの来年2月、与野党間で合意した修正案を盛り込んだ上で、法案を再度上程するとしている。しかし、アボット氏の党首就任を契機に、自由党は政府の排出量取引制度への反対姿勢を強めている。特定の法案を巡って政局がこう着状態に陥った場合、政府は、最後の手段として、上下両院の解散総選挙に訴える可能性もあると伝えられており、同法案を巡る来年の政局の動きに注視が必要である。
【玉井 明雄 平成21年12月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 調査課 (担当:井上)
Tel:03-3583-9535