需給動向 海外

◆米 国◆

大規模酪農地域で生乳の収益性が低下


◇絵でみる需給動向◇


購入飼料の高騰で生産費が大幅に増加

  米国農務省経済調査局(USDA/ERS)によると、飼料や燃料価格の高騰により、米国の主要酪農州における生乳の推定生産費は増加を続けている。しかし、生産地域や飼養規模による購入飼料への依存度の違いにより、その影響の程度は異なっている。(図1)

  温暖な気候を利用した企業的大規模経営で急速に生乳生産を拡大してきたカリフォルニア州(生乳生産量全米第1位)では、2008年6月の推定生産費(家族労働費を除く。以下同じ。)が21.59ドル(生乳100ポンド当たり。以下同じ。キログラム当たり51.9円:1ドル=109円)に増加し、前年同月を44.4%(6.63ドル、同15.9円)上回った。同州は、飼料の8割以上を購入飼料に依存(2005年実測調査結果)しており、生産費増加のうち5.51ドル(同13.2円)が購入飼料価格の高騰によるものである。

  これに対し、伝統的な酪農地域で中規模経営が多い五大湖周辺のウィスコンシン州では、2008年6月の推定生産費が前年同月を4.88ドル(29.9%増)上回る21.19ドル(同50.9円)となったものの、カリフォルニア州の推定生産費を下回った。同州では燃料費の増加が比較的大きい(0.38ドル、同0.9円)ものの、自給飼料の給与割合が5割を超えている(2005年実測調査結果)ため、購入飼料費の増加がカリフォルニアより2ドル以上少ない3.15ドル(同7.6円)にとどまっている。

  なお、農地価格が高いことなどから比較的小規模の家族経営が多く、他地域に比べて生産費の高いニューヨーク州(生乳生産量全米第3位)では、2008年6月の推定生乳生産費が27.22ドル(前年同月比24.3%増、同65.4円)に増加したが、前年同月からの生産費の増加額は5.32ドル(同12.8円)とカリフォルニア州を下回っている。

図1 主要州における推定生乳生産費(家族労働費を除く)


総合乳価は生産の抑制で堅調に推移

  酪農家の受取乳価(総合乳価)を州別に見ると、カリフォルニア州の乳価は一貫してウィスコンシン州やニューヨーク州を下回り続けている。これは、同州が連邦ミルクマーケティングオーダーに参加せず独自に用途別の最低取引乳価を定めていることに加え、生乳取引量に占める脱脂粉乳・バター向けの割合が高い(47.4%:2007年)ことなどによる。(図2)

図2 主要州における受取乳価(総合乳価)


  2008年4月における総合乳価は、カリフォルニア州が15.88ドル(同38.2円)、ウィスコンシン州が18.11ドル(同43.5円)、ニューヨーク州が17.91ドル(同43.0円)であり、いずれの地域においても昨年後半の水準から3〜4ドル程度下落している。しかし、全国平均の総合乳価は4月を底に上昇に転じ、7月は4月の水準を1.4ドル上回る19.4ドル(同46.6円)となっていることから、各州の総合乳価もこれと同程度上昇していると考えられる。

  なお、米国の生産者団体は8月に生産者の拠出金による搾乳牛とう汰事業(CWT事業)を実行し、初妊牛も含めて約2万6千頭を処分する予定としている。このため、USDA/ERSは本年第3四半期以降の生乳生産の伸びが鈍化し、総合乳価が堅調に推移すると予測している。(第3四半期:18.90〜19.30ドル、同45.4〜46.4円。第4四半期:19.20〜19.90ドル、同46.1〜47.8円。)


カリフォルニアの酪農経営は苦しい状況に

  図3はUSDA公表の推定生産費(家族労働費と減価償却費を控除)と総合乳価との比較により、生乳100ポンド当たりの現金ベースの酪農経営収益性を試算したものである。

  乳価が低迷した2006年はいずれの地域でも酪農経営は厳しい状況にあったが、2007年に入ってCWT事業による搾乳牛とう汰や国際乳製品市場のひっ迫をきっかけに歴史的高水準の乳価が続いたため、飼料価格の上昇にもかかわらず酪農経営の収益性は好転した。

  その後、2007年末から乳価が下落したため、生産費上昇の影響を受けて、酪農経営の収益性は悪化している。前述のとおり、4月を底に米国の生産者乳価は上昇に転じているが、購入飼料への依存度が高いカリフォルニア州では穀物価格の上昇に加えてアルファルファなどの粗飼料価格とその運送費の上昇に苦しんでいる。

  これに対し、春先の悪天候による自給飼料の不作が懸念されるウィスコンシン州の酪農経営では、コーンサイレージの給与量を減らしてアルファルファサイレージ中心の給与体系に変更するなど経営内でのリスク吸収努力を続けており、試算値よりも経営余力がある経営も少なくない。

  米国内では、乳製品価格の上昇と景気の減速により、外食を中心に需要が拡大を続けてきたモッツァレラなどイタリアンチーズの生産量が本年に入り減少傾向にあるなど、国内需要の拡大は期待しがたい状況にある。そのような中、飼料価格高騰による生産費の増大への対応が困難な地域を中心に、生乳生産の引き締めと海外輸出の一層の拡大を通じた乳価引き上げへの期待が高まっている。

図3 主要州における酪農経営収益性(現金収支ベース)


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